Third Thinking_影山徹哉 ささいな意思決定をするときは、 長所と短所をすべて考慮した方がよいとわかって います。 しかし、パートナーや職業選択のような重要な選 択となると、 意思決定は自分白身のどこかから、無意識からく るかもしれません。         −精神分析学者・医師 フロイト プロローグ よりよい人生を送るために I−最先端の科学で提唱された最強の思考法  《Th・−rdth・−nk・−n9〜無意識思考》  私たちの人生は、選択の連続です。  どの学校に進学したいか、どんな会社に就職 したいか、本当にこの人と結婚していいの か……。  そんな人生の大きな節目における選択ばかり ではなく、たとえば今日の朝食は何にしようか、 どの服を着ようか、ランチはどこの店に行こう かといった、日常の些細なことでも、私たちは 日々さまざまな意思決定を行っています。  その都度、事の大小の差はあれど、ベストな 選択ができるように、私たちは試行錯誤し、決 めているのです。  もっとも、これまでの経験をひもといてみれ ば、ひらめきや直観によって、たちどころに心 が決まることもあれば、長い時間をかけ、じっ くり考えて、ようやく結論を導き出すようなこ ともあったでしょう。  それを思うに、私たちの「思考」には、どう やらいくつか種類があるようです。  実は、。人間の思考”については心理学をは じめとして、特に「行動経済学」という分野に おいて、研究がなされてきました。  ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの行動 経済学者ダニェルーカーネマンは、人間の思考 には、  @速い思考(システムー)  A遅い思考(システム2)  の2つがあるとしました犒。  そして、私たち人間は、意思決定の対象が何 であるかに合わせて、最もよい決定ができるよ うに、2つの思考を使い分けているというので す。  「速い思考」とは、端的にいえば「直観的に素 早く決める」思考です。  「今日のランチはどこにしよう?」と考えたと き、職場の近くにできた新しいお店をぱっと思 い出して「あそこに行ってみよう!」と即決し たとしたら、そのとき私たちは「速い思考」を 使っています。   一方、「遅い思考」とは、要するに「熟考し て決める」思考のこと。  たとえば、パソコンやスマートフォンなどの、 ある程度高額なものの購入を検討するときは、 数ある商品を前にしてそれぞれのスペックを比 較したり、価格を見比べたり、デザインやカ ラーを見比べたりと、じっくり考えてから決め る方が多いでしょう。  そういうときは「遅い思考」を使っているの です。  どなたにも、覚えのある話ではないでしょう か。  しかし、もう少しだけがんばって、これまで あなたがやってきた「意思決定」を振り返って みてほしいのです。  次のような経験はないでしょうか?  先ほど例に挙げた、パソコンやスマートフォ ンを購入する際のことを考えてみましょう。あ れこれ比較しようにも情報量が多すぎて、どの 製品にすればいいのか決めかねてしまうことっ てありませんか。  家電量販店に足を運んだものの、どうにも決 めかねて、「検討して後日購入しよう」と、情 報だけたくさん入手して店をあとにしました。  それから3日後、通勤途中に「そうだ!あれ にしよう!」と突然ひらめいた……。  こんな経験、ありませんか?  新企画の構想を練るために何時間もかけて情 報を集め、検討したのに、なかなかいい案が思 い浮かばない。一旦切り上げて家に帰り、お風 呂につかってゆっくりしていたら、不意に名案 が思い浮かんだ……。  これもよくある話ですよね。  実は私たちは、意思決定に行き詰まったとき、 あえて意思決定の対象とは何の関係もない活動 に従事し、決定を先延ばしするということを、 日常的に行っています。そうして先延ばしにし ているうちに、ふとひらめきが訪れる瞬間を迎 えるのです。  そして、この「一旦考えるのをやめたあと、 別のことをしているときに急に思いつく」とい う思考は、先に挙げた「速い思考」「遅い思考」 のどちらにもあてはまりません。  いわゆる「思考を寝かせてから決める」とい うまったく別の思考法です。  さらに突き詰めて考えると、思考を寝かせた あとに考えがひらめく瞬間が訪れるのは、意思 決定の対象に注意を向けていないときではあり ませんか?  たとえば入浴中、散歩中、通勤電車の中で、 読書中、洗濯物を干しているとき……。  不思議ですよね。  そこで、考えてみてほしいのです。  考えを一旦やめたはずなのに、なぜ急にひら めきが訪れたのでしょう?そもそも、考えるこ となく結論を導き出すことなどできるのでしょ うか?  いいえ、そんなはずはありません。  何の思考も起こっていなければ、突然ひらめ くことなどありえません。  ということは、一旦考えるのをやめたつもり が、私たちのあずかり知らぬところで、なんら かの思考が続行されていたと考えるほうが自然 ではないでしょうか。  家電量販店を出て、家に帰って夕食をとり、 洗濯物をたたみ、お風呂に入っている問にも、 「どのスマートフォンを選ぶか」に関する思考 が、無意識のうちに継続されていたと考えるほ うが自然です。  しかも、この思考は「自分では意識できない 思考」なのです。  意識できない思考−これが本書でこれから ご紹介する「無意識思考」です。  「無意識思考」は、先に紹介した「速い思考」 (直観/システムー)「遅い思考」(熟考/シス テム2)に加えて、第三の思考〜Th・lrd th・lnk・lng(システム3)として近年、 最先端の科学において提唱されている思考法で す。  私は経営脳科学(経営神経科学ともいう)と いう分野を研究しています。  経営を心理学的側面から研究する分野は、経 営心理学として知られていますが、私はそれを 脳科学の領域まで拡張し、経営を脳科学的側面 から研究しているのです。  まず、日本・アメリカの大学で経営学につい て学び、経営コンサルタントとして企業の現場 で経営支援をさせていただくなかで、私は意思 決定、そして新しいモノやサービスを生み出す ための創造的思考法に興味を抱きました。そし て、今や意思決定や思考法の研究は、心理学や 行動経済学から脳科学にまで発展してきている ことを知ったのです。  そこで私は、世界最先端の脳科学研究が可能 な東北大学加齢医学研究所にて思考法、とりわ け無意識思考について研究を行いました。その 研究結果についての論文も認められ、現在は、 京都の大学で非常勤の教員をさせていただいて おります。  この無意識思考の研究はまだ歴史が浅く、特 に、無意識思考の脳科学研究については、世界 的な研究機関の1つであるアメリカのカーネ ギーメロン大学の研究者らが行った研究と、私 たちが行った研究の2例しかありません。  ただ現在、世界中で研究が進められており、 発展的な分野の1つと考えられています。その 点において、多少おこがましくはありますが、 この研究分野における世界的トップランナーと 自負しているのです。  私たちは、知らずしらずのうちにこの「無意 識思考」を使うことで、私たちが本来持ってい る素晴らしい能力を開花させてきました。 「無意識思考」は誰しもが使える能力です。  しかし、これまでこの能力があることに、み んな気づいていませんでした。気づかないまま、 なんとなく使ってきたわけです。  その「無意識思考」を、意識的に使うことが できたとしたら?  私たちの可能性は、無限に広がっていくので はないでしょうか。  今現在、この「無意識思考」は、複雑な意思 決定において「速い思考」「遅い思考」のどち らよりも優れた思考であることが、科学的に証 明されています。  この思考法によって、ビジネスの意思決定か ら、進学、就職、結婚など生活における意思決 定まで、これまで以上にベストな選択ができる ようになるでしょう。さらには、「無意識思考」 を活用することで、創造性も向上することがわ かっています。  これからの時代、私たちが最も活用すべきは、 「速い思考」でも「遅い思考」でもなく、これ からご紹介する、第三の思考である「無意識思 考」であることを、私は確信しています。  今、世の中では人工知能が急速な発展を見せ ています。  近い将来、労働における単純作業はすべて、 コンピューターとそれが制御する機械にとって かわられる可能性が示唆されています。そのと き、私たち人間は、これまでよりも多くの時間 と労力を、創造的な活動に割くことができるよ うになります。  裏をかえせば、創造的な仕事において能力を 発揮できなければ、居場所がなくなってしまう でしょう。  「アイデアが湧かない」  「もっと創造性があったらな……」  と嘆いている余裕すらなくなってくるはず。  そうして、自らの創造性や発想力のなさに悩 む人に、有効なものこそ、この「無意識思考」 なのです。  音楽の天才モーツァルト、文豪ヘミングウェ イなどといった世界的偉人は、この無意識思考 を使って偉業を成し遂げてきた可能性が大いに あるのです。  さらに、マイクロソフト、アップル、スター バックスなど世界的大企業の発展の影にも、こ の無意識思考の存在があった可能性があります。  つまり、周囲をあっと驚かせるようなアイデ アを生み出すことが、この思考を使うことで可 能となります。  まさに、創造性を生み出す究極の思考法。そ れが無意識思考なのです。  「無意識思考」−俄然、気になってきません か?  すでに学問の分野では注目されてきたこの 「無意識思考」を、一般書として読者のみなさ んにご紹介するのは、本書が初めてになるで しょう。  そもそも「思考」とはどんなものなのか。  なぜ、「無意識思考」が今重要なのか。  どうすれば「無意識思考」を活用し、私たち の仕事や日々の生活を充実させることができる ようになるのか。  これから詳しく解説していきます。  難しいことはありません。なぜなら、誰もが すでに使っている思考法なのですから。  ただ、「無意識思考」の存在を知って活用で きるか、知らないままなんとなく使っているか Iこの両者には大きな差が生まれてきます。  もし、これを知って活用することができた ら……。みなさんの生活は、大きく変化し、よ り充実するはずです。実際、私自身も、さまざ まな人生の局面において、この無意識思考に助 けられてきました。  今はダマされたと思って、信じてみてくださ い。  無意識思考は、最強の思考法です。  本書を読み終えたとき、きっと読者のみなさ んに、それをご納得いただけると思います。 日々、何かを選択し続けている 私たち 私たちの日常は、選択の連続です。 朝食はパンにするか、ご飯にするか。 どの服を着ていくか。 傘は持っていくか。 会社まで電車で行くか、バスで行くか、車で 行くか。  そして、会社に着いたら、メールを返信する か否かを選択し、前者を選択したら、今度はど んな文面で返信するかを決める。次にどの作業 を処理するかを選択し、取り掛かる……。  などなど、退社するまで数限りない選択を繰 り返します。  いや、退社してからも、帰宅途中も、帰宅し てからも、毎秒毎秒、選択が繰り返されるので す。  コロンビア大学ビジネススクールで、意思決 定の研究をしているシーナーアイェンガーは、  「人は一日に平均70回の意思決定をしている」  と述べています測。  この中には、朝食で何を食べるか、どんな服 を着るかという比較的小さな選択から、内定を もらった会社のうちどちらを選択するかといっ た、人生を決めるほどの大きな選択まで含まれ ています。  1日に70回の意思決定を行っているというこ とは、I週間で約500回、Iか月で約 2100回、1年では約26000回もの (!)意思決定を行っていることになります。  みなさんの年齢から、これまでどれくらいの 意思決定してきたのか、ざっくりと計算してみ てください。  あまりの数の多さに驚かれるかもしれません。  いわば、私たちが生きることは意思決定を続 けることであり、一つひとつの意思決定が私た ちの人生を形作っているのです。  思考にも”アクセル”と”ブ  レーキ”がある  そもそも、私たちはどのように意思決定をし ているのでしょうか?  意思決定の重要性は、過去多くの研究者・科 学者らの関心事でありました。  そのため、意思決定研究には長い歴史があり、 私たちがどのように意思決定しているかについ ては、すでにさまざまなことがわかっています。  私たちが何かを選択するとき、2つの脳の働 きが関わっているI。  いわゆる、  @速い思考(システムー)  A遅い思考(システム2)  という2つの思考があることは、本書の冒頭 でもすでにご紹介したとおりです。  無意識思考(システム3)についてひもとい ていく前に、まずは「速い思考」と「遅い思 考」について詳しく説明してみましよう。 @速い思考(システムー)  「速い思考」とは、直観的で素早い思考を指し ます。  たとえば、パン屋さんに入り、衝動的に「ク リームパンがおいしそう」と思って、即座に 買ったとしましよう。これは「速い思考」を 使って意思決定したことになります。  突然聞こえた音の方向を察知する、という瞬 間的な判断も「速い思考」のなせる業です。た とえば、私はヘビが大の苦手なのですが、ヘビ の写真やヘビ柄のカバンを見ると、目をそむけ たくなります。これも「速い思考」を使ったこ とになります。  ただ、「速い思考」は努力も不要で素早いの ですが、無自覚であるが故のバイアスを起こす こともあります。  たとえば、次の問題について即答してみてく ださい。    バットー本とボールー個の値段は合計   Iドル10セントです。    バットはボールよりIドル高いです。    さて、ボールー個の値段はいくらで  しよ’つか?  これは「認知的熟慮性テスト」と呼ばれ、 「速い思考」によるバイアスを示すためによく 使われる問題です刹 。  さあ、答えをどうぞ!  多くの人は「10セントー」と答えます。みな さんはどうでしたでしょうか?  しかし、ボールが10セントなら、バットはI ドル10セントということになり、2つの合計金 額がIドル20セントになってしまいますよね。  よくよく考えるとわかるのですが、「即答し て」となると、間違ってしまう人が多いのです。  正解は5セント。 「10セント」という答えを導き出しだのは「速 い思考」の働きによるものですが、後から冷静 になって考えることで誤りに気が付くのは、の ちほど説明する「遅い思考」のゆっくりとした 思考の働きによるものです。  この場合「速い思考」を自動車のアクセルに たとえるなら、ブレーキに相当するものが「遅 い思考」ということになります。 A遅い思考(システム2)  「遅い思考」とは、じっくりと考える、熟考す ることを担当しています。  「論理的思考」「合理的思考」と言い換えるこ ともできます。  たとえば、先程のパン屋さんの例でいえば、 最初に「クリームパンがおいしそう」と思った けれど、よく見るとその隣においしそうなあん ぱんがあることに気づきます。  「クリームパンもおいしそうだけど、あんぱん もおいしそう。でも、2つも食べるとカロリー オーバーだし、どっちにしよう……」などと、 じっくり考えて決断したとしたら、それは「遅 い思考」を使ったことになります。  「遅い思考」は、複雑な計算を判断したり、企 画書を作成したり、旅行の計画を練ったりする ときに使われます。  そして私たちは、これら2つの思考を活用し て、日々、意思決定を行っているのです。  それぞれが「最善な答え」を用  意する”古い脳”と”新しい  脳7  社会認知神経科学(脳科学研究)において、 世界で最も注目されている研究者のI人である カリフォルニア大学ロサンゼルス校心理学部、 精神医学・生物行動科学部教授のマシュー・ リーバーマンは、システムー(速い思考)、シ ステム2(遅い思考)の2つのシステムについ て、それぞれ多様な脳領域の関与を指摘し、さ らに、2つのシステムは異なる脳の神経回路が 関係していると主張しています徊。  (※以下、リーバーマンの指摘については、そ の用語を尊重するために、システムー、システ ム2という用語を使わずに、Xシステム〈反射 的システム〉、Cシステム〈内省的システム〉 という用語を使っています〈研究者によって、 タイフー、タイプ2と呼ぶこともあります〉。 xシステムのxは「反射的」を意味する ReflexiveのM、cシステムは「内省的」を意味 するReflectiveのQに由来しています。)  xシステムについては、大脳の奥深くにある 大脳辺縁系(恐怖や不安、喜びなどの情動と関 係している扁桃体などからなり、進化的に古い 脳とされている)が担っているとする一方で、 cシステムは大脳新皮質、とりわけ脳の司令塔 とも呼ばれる前頭前野(まさに思考を担う脳の 最高中枢と説明されることが多く、進化的に新 しい脳であるといわれている)が関与している とし、人間は、この2つの独立した脳のシステ ムを活用して、日々の意思決定を行っていると いうのです([図版I])。  リーバーマンのこの指摘が、私の研究テーマ の発端となりました。  2つの脳の働きに注目し、複雑で難しい意思 決定において、どのように選択すればベストな 選択ができるのかを、研究することにしたので す。  私の仮説は、リーバーマンがいうところのC システムである「遅い思考(システム2)」、つ まり「じっくり考える」ことが、難しい選択に 対しては有効だろうというものでした(【図版  別に研究者でなくとも、おそらく多くの人が 。なんとなく”そういう感覚を持っていること とは思います。  しかし、「複雑で難しい意思決定」といって も、今までも挙げてきたように、対象はたくさ んあります。  そこで私か研究対象としたのが「ビジネスに おける意思決定」でした。  特に、経営に関わる意思決定は、非常に複雑 で難しいものの1つです。  私自身、かつて中小企業を対象とした経営支 援業務に携わっていた経験もあり、多くの経営 者の方と接する中で、その重要性については痛 感していました。  どのように事業を展開するか、誰を採用する か、どこにどれだけ投資をするか。  経営における意思決定は、それらの成功の可 否によって、数千万円の損失になるときもあれ ば、数億円の利益につながることもあります。  たとえば、ノーベル経済学賞を受賞したアメ リカの経済学者・認知心理学者ハーバートーサ イモンも、「企業経営において最も重要なのは 意思決定である」91、と述べています。  意思決定と思考のしくみがわかれば、ビジネ スにおける意思決定において、常に最良の選択 ができるようになるのではないか……と考えた のです。  80年以上にもわたって研究され  た”ビジネス”と”思考”から  見えてくるもの  「うちの上司は直観が鋭くて、決断も早いから、 仕事のスピードも速くて仕事が進めやすい」  「先輩は細かいことでもじっくり考えるから、 仕事がなかなか進まなくて困る」 ……よくありかちな話ですね。  これらは要するに、その人の思考が「速い思 考」に相当する直観性と、「遅い思考」に相当 する論理・合理性のどちらに偏っているかは、 個人差があるということです。  時間をかけず感覚的に処理する傾向のある大 は、直観型といえるでしようし、じっくりと時 間をかけて考えるのが得意な大は、論理・合理 型といえます。  こうした情報処理の好みのことを「認知スタ イル」と呼び、一般的には学習や業務遂行に影 響するといわれています。  では、ビジネスにおける意思決定には、直観 性と論理・合理性のどちらが重要であるといえ るでしょうか?  私は、それこそ直観的には、論理・合理性が 重要であると考えていました。  ビジネスで接してきた多くのビジネスパーソ ン、特に経営者の中には、じっくり考えて結論 を下すタイプの方が多かったからです。  ところが、結果は逆でした。  実はビジネスと思考については、すでに80年 以上にもわたって研究されており、「ビジネス においては直観性が重要である」と結論づけら れていたのです01。  たとえば、アメリカのコンピューター産業、 銀行業、エネルギー産業を代表する企業の管理 職は、直観的な意思決定を行っていることが研 究によりわかっています。  特に、コンピューター産業は外部環境の変化 が著しいといわれ、そのような企業ほど、直観 的意思決定は良好な企業業績と結びつくことも、 わかっています羂。  同様に、イギリスの中小企業を対象とした研 究でも、直観性が良好な経営パフォーマンスと 関係していることが報告されています闘。  そして、直観に関する研究テーマは直観性と                   I 起業家似、直観性と戦略的意思決定徇、直観                − 性とプロジェクトマネジメントー……など多岐に わたっていました。  ただし、ビジネスとI囗にいっても、たとえ ば管理職と一般従業員では求められる役割が大 きく異なるはずです。そのため、認知スタイル は職階との関係においても長年研究されてきま    I した口。それによると、職階が上がるにつれ て直観的になることが、明らかになっています I 坤。簡潔にいえば、部下より上司のほうが直 観的な傾向が見られるわけです。  たとえば、イギリスの大手建設会社では、取 締役クラスは中間管理職よりさらに直観的な傾 向かあり、大手ビール会社においても同様の傾                − 向かあることが示されています挧。  実際のビジネスでは、時間制約がある中で、 完全な情報を得られることはまずありません。 むしろ、不確実な状況下で、仕事を進めなくて はならない状況が多々あり、多くの管理職はこ のような状況に直面したときに、直観的な意思               − 決定を行うといわれています掏。  たとえば、マイクロソフト創業者・元会長の ビルーゲイツは、CNNのインタビューで「ア イデアの良し悪しをどう判断するか」と尋ねら れ、  「自分でこれがいけると思ったら、その直観を 信じることにしています」          −  と答えています徇。  アップルの創業者・元会長のスティーブー ジョブズも、自身の成功は直観的思考によるも のであるとして次のように述べています。  「直観は非常にパワフルです。知性よリパワフ ルだと思います。直観的理解や知覚というもの は、抽象的思考や知的で論理的な思考よりも。                      − ずっと重要であることに気が付きました」摺  スターバックスコーヒーの元会長のハワー ドーシュルツも、これまでに学んだことについ て聞かれ次のように述べています。  「さまざまな対立する意見がある中で、私は直                      − 観的な感覚を信頼することを学びました」徇  実際、彼はスターバックス入社1年目でミラ ノに出張した際に、現在のスターバックスの原 型がひらめいたと述べています。  ミラノのエスプレッソバー、そしてそれぞれ のカフェが持つ儀式性と物語性。それらを見た とき、「こういう店をアメリカに作ったらどう だろう」とはっと思いつき、身震いしたといっ ています。  ヴァージングループの創業者・会長のリ チャードーブランソンは、  「私は、相手をどう判断するか、出会って30秒 以内で決めます。出会って、30秒で人間を判断 するのと同じで、ビジネスの提案でも、心が躍 るかどうかは30秒でわかる。私にとっては、統 計的リサーチより直観のほうが遥かに大切なの です」          −  といっています徇。  こうした直観的な経営者が経営する企業は、 論理・合理的意思決定方式を主流とする企業よ りも、長期的に見て成長率が高いこともわかっ ています。  このような背景から、認知スタイルと直観研 究は脚光を浴びるようになり、同時に、経営と 直観性に関する一般書も出版されるなど、現実 の経営にもさまざまな形で影響を与えるように なりました。  しかし、私はこの結論を導いている研究・調 査には、以下の3つの問題点があると考えまし た。 @これらの報告や研究は主に欧米圈で行われて  いる  「ビジネスの成功は直観だ」と主張する研究調 査は欧米圈、特にアメリカやイギリスで行われ たものが中心です。文化そのものや企業文化が まったく異なる国では、違う結果や結論が導か れるかもしれません。 A年齢の影響  これまでの研究では、年齢の影響が考慮され ていませんでした。一般的に、職階が上がれば、 年齢も上がると考えられます。  さらに、直観性と年齢は、正の相関関係があ るという研究があります。  つまり、「経営の話とは別に、単に、年齢が 高いから直観的であった」と、年齢だけで説明 がついてしまう可能性もあるのです。  これまでの研究では、認知スタイルを計測す る質問紙としてI軸モデルのものを使用してい     I ました挧。  ところが、近年の認知科学研究によると、直 観性と論理・合理性はそれぞれ独立していると                   I いう2軸モデルが主流となっています刈。  先ほど紹介した社会認知神経科学(脳科学研 究)においても、それぞれ独立した神経回路が 担っていると説明されており、独立したものと みなすことが妥当です。  思考法にも”各国の文化”が反  映されている  そこで、私は30代から60代の私企業(公務員 は除く)に勤める日本人ビジネスパーソン 1600名を対象に、職階、年齢、性別に偏り が出ないように均等にデータサンプリングをし た上で、職階と認知スタイルに関する調査を行     − いました川。  その結果は、驚くべきものでした。  日本人管理職は、論理・合理的な認知スタイ ルを有していることがわかったのです。  つまり、先行知見とは正反対の結果であり、 日本企業は直観性ではなく論理・合理性に牽引 されていたのです。  一方で、論理・合理性に関して職階と年齢の 関係性を詳しく見てみると、興味深い傾向があ  まず40代、50代は、職階とともに論理・合理 性得点が高くなっています。これは、年功制に 基づく典型的な日本企業の文化を反映している のでしょう。  一方、30代、60代の上級管理者は、一般的な 年功制をベースとした企業文化から外れている サンプルが含まれていると考えられます。  この層には、特異的な個性や能力(たとえば、 起業家精神やカリスマ的リーダーシップ)を持 つ人が含まれていると考えられ、彼らの昇進に は論理・合理性が影響しなかったと推察されま す。  これらを踏まえ、私はビジネスと認知スタイ ルの関係性には、文化の影響があると仮定しま した([図版5])。  上司から新規事業のアイデアを求められたと き、欧米企業では部下が直観的に「これにしま しょう!」と提案できる下地があるでしょう。  しかし、日本企業でそれをやると、「もう少 し考えてみなさい」と返答されがちです。日本 文化では、じっくり考えるという「努力」や 「苦労」が美徳とされる傾向があるからです。  「ビジネスの意思決定では直観を使え!」と、 単純に言い切ることはできないのではないか 私はそういう結論に至ったのです。   「あのとき、ああしておけばよ   かった」をなくす方法  私たち、というより日本人は、難しい選択に 対して「じっくり考える」というアプローチを とることが最善の策である、と信しがちです。  「じっくり考えなさい」  といわれたとき、つまりそれは「遅い思考を 使いなさい」といっていることに他なりません。 そして私の研究データは、日本人が論理的・合 理的にじっくり考える傾向が強いことを示しま した。  でも、じっくり考えて最善の選択ができるの であれば、みんながうまくいっていなければお かしいのです。すべての選択が最善で然るべき なのです。  しかし、現実はそうではありません。  多くの方が、過去の選択を後悔し、「あのと き、ああしておけばよかった」と悔やんでいま す。  一方、「難しい意思決定にどのようなアプ ローチで臨むべきか」という研究では、これま で。直観性が重要視されている”という結果で したが、私の研究によると日本においては異 なっていました。  どうやら、そこには文化などさまざまな影響 があり、一概に直観性と合理性のどちらがよい かは断言できないようなのです。  そこで、私は確信しました。  「2つの脳の働き」に限って議論している限り、 「複雑な選択に対するアプローチ」に対する答 えは永久に出ないのではないか……と。  そこで私か着目したのが、「無意識の思考」 という現象だったのです。   ”いいアイデア”はじっくり考  えても生まれない  「人間は、無意識に思考することができる」  これは、科学的に検証されている事実です。  私は、最新の脳計測装置を用いて、この「無 意識思考」を行っている脳活動を捉えることに 成功しました。  さらに、最先端の心理学・脳科学の急速な進 展にともない、私たちが無意識に思考している 事実が、次々と明らかにされています。  この「無意識思考」を端的に説明するなら、  「課題に対して意識的な注意が向けられていな いときの思考」  という意味になります。  そして、私たちは認識していないだけで、実 はこの「無意識思考」を日常的に利用していま す。  ところでみなさん。  思考とは何でしょう。私たちはなぜ思考する のでしょう。  たいていの場合、人が何かを思考するのは、 考えをまとめたいときです。思考して、意思決 定をしたいときとも言い換えられるでしょう。  私は以前、経営コンサルタントとして、多く のビジネスパーソンと関わった中で、あること に気がつきました。  彼らはたいていの場合、大きく分けて2つの 共通する悩みを持っているのです。  1つは、望ましい意思決定ができないこと。  ここでいう意思決定とは、「これを買うか買 わないか」といった単純なことではなく、ビジ ネス・経営における、非常に複雑で難しい課題 を対象としています。  たとえば、この事業に投資すべきか、どんな 人を採用するか、この部署をどのようなチーム 編成にするか……といった、企業の命運を左右 しかねない課題などです。  そして、望ましい意思決定をすることが、ビ ジネスの成功のための大きな要因になっている ことは間違いありません。つまり、意思決定に おいて最高のパフォーマンスが発揮できれば、 ビジネスは向上していくのです。  もう1つの悩みは、創造性に乏しく、斬新な アイデアを生み出せないこと。  日本人が最も苦手とするのが、この「創造 性」だと感じます。  日本の教育がこれまで暗記教育をメインとし ており、創造性が評価されにくかったことが大 きな要因でしょう。画一的な受験教育の弊害も あります。  斬新さあふれるアイデアが、生まれにくい土 壌が作られてしまっているのです。  一方、世界に通用する製品やサービスを生み 出すには、斬新なアイデアが必須です。  今の時代、創造性やアイデアを生み出す力が、 企業の力、ひいては国力の差につながるといっ ても過言ではありません。  では、いわゆる「よいアイデア」を生み出す には、どうすればいいのでしょう?  じっくり時間をかけて考える?思いつくまで、 ひたすら検討し、悩み続け、そのためにならい くらでも時間をかけるべき?  上司にアイデアを求められても、いい提案が できなかったとき、「もっと考えなさい」「本当 にじっくり案を練ってきた?」なんて小言をも らってしまったり……。  そんな経験はありませんか?  要するに、  「いいアイデアは、じっくり考えることで生ま れる」  と思っている人が多いわけです。  しかし、これは大きな間違い。むしろ「じっ くり考える」ことは、革新的なアイデアを生み 出すために、最もやってはいけないことなので す。  では、どうすればいいのか。  意思決定ができない、そして斬新なアイデア が生み出せないという2つの悩ましい問題を一 気に解決できるのが、実は本書でご紹介する 「無意識思考」です。  有名科学誌『サイエンス』に掲  載された”無意識思考”研究  たとえば、進学先や就職先を検討するとき、 住む家を探しているとき、転職を考えていると き、恋人との結婚を考えはしめたときなど、人 生のターニングポイントとなるような選択を迫 られたとき、みなさんは、じっくりゆっくり考 えて結論を下そうとするでしょう。  迷って誰かに相談してみたら、  「慌てず、じっくり考えてみたらいいよ」  とアドバイスをもらった方も少なくないかも しれません。  確かに、いきあたりばったりででたらめに選 択するよりは、じっくり考えたほうが、良い決 断ができそうな気がします。「じっくり考えた 末の結論なのだから、間違いないに違いない」 と思いたい心理的な側面も大きいかもしれませ ん。  こうした背景から、複雑な選択に対しては 「じっくり熟考する」というアプローチが最も 有効であると考えられてきたわけです。  しかし、よくよく考えてみれば、「じっくり 熟考」したからといって、必ずしも良い結果が もたらされるわけではありません。失敗するこ とだってあります。  人間心理には、選択が間違っていたにもかか わらず、「一生懸命に考えたのだから、良い選 択だったのだ」と、自分を納得させようとする メカニズムがあることもわかっています。  実のところ、複雑な選択において「じっくり 熟考する」のは、かえってよくないことが有名 科学雑誌『サイエンス』に掲載された無意識思                  − 考研究によって明らかにされました功。  オランダの社会心理学者ディクステルホイス らは、無意識思考に関する研究を行うにあたっ て次のような仮説を立てました。  @じっくり考える意識的思考は、単純な課題   では良い意思決定を行うことができる。  Aしかし、複雑な課題では、処理容量が限界   を超えてしまうため、良い意思決定はでき   ない。   無意識思考は、容量の制約がないため複雑   な課題では良い意思決定ができる。  被験者に4台の車を提示し、その中から最も 良いと思った車を選んでもらうという実験です。 4台の車のうち、1台は最も良い車(燃費が良 い、など良い属性を多く持つ)、1台は最も悪 い車(燃費が悪い、など悪い属性を多く持つ)、 残り2台はそのどちらでもない中間の車でした。  被験者に対して、まずは4台の車(アイテ ム)に関する情報が提示され、この情報につい ては、単純条件と複雑条件の2つが用意されま した。  単純条件では、「操作性」「燃費」「トランク の大きさ」「色の選択肢」など4つの属性のみ 伝えられました。  一方、複雑条件では、先の属性も含めて12の 属性が、1つずっランダムに提示されました。  さらに、それぞれの条件について、被験者た ちは2つの思考モードに分けられました。  1つのグループは、意識思考条件が課されま した。つまり、車の特徴が提示されたあと、4 分間じっくり考える時間が与えられ、そのあと、 最も良いと思う車を選びます。  もう1つのグループは、無意識思考条件が課 されました。車の特徴が提示されたあと4分間、 車の選択とはまったく関係のないアナグラム (文字を並び替えることによって、まったく別 の意味にすること。たとえば、tasteとい う英単語のアルファベットを並べかえてsta teを作る、日本語であれば「みかん」の文字 を並べ替えて「みんか」という単語を作るな ど)を解くよう指示され、その後、最も良いと 思う車を選びました。  被験者はアナグラムを解いている間、意識的 に車について考えることができません。このよ うに無意識思考条件で課される課題のことを 。妨害課題”と呼びます。  妨害課題を課している問、被験者の意識は妨 害課題、つまリアナグラム課題を解くことに向 けられますが、水面下では無意識思考が生じて いると仮定するわけです。  こうして行われた実験の結果は驚くべきもの でした。  単純な課題においては、考えてすぐに答えを 出した方が良い選択ができた一方で、12もの属 性が提示された複雑な課題の方では、無意識思 考によって答えを出した方が、より良い選択が できたのです([図版7])。  こうして、ディクステルホイスらの仮説は正 しいことがわかりました。  意思決定を行おうとするとき、検討材料や情 報が多すぎたり、複雑な課題であったりすると きは、一旦、本題とは関係ないことをやってみ て、それから決めたほうが良い結果が得られる Iつまり、無意識思考の方が向いているとい うことを、実験結果が示したのです。  この研究には続きがあります。  同じような条件で、より実生活に即した実験 が行われたのです。  まず研究者たちは、選ぶときに検討する条件 の少ない単純な商品を扱う店と、逆に検討する 条件の多い複雑な商品を扱う店を選びました。  単純な商品とは、たとえば傘。サイズも形も ほぼ同じで、検討材料はデザインと価格くらい です。  一方、複雑な商品とは、ブランドやデザイン、 機能、価格など多くの検討材料がある商品で、 家電製品はもちろん、ソファや家具なども該当 します。  単純な商品を扱う店として選ばれたのは、オ ランダの高級デパートであるバイェンコルフ、 複雑な商品を扱う店としては、日本でもおなじ みのイケアが選ばれました。  そして、それぞれの店から出てくるお客さん に、次のような質問をしたのです。 「何を買いましたか?」  「いくらしましたか?」  「買い物に行く前に、その商品についてどの程 度知っていましたか?」  「初めてその商品を見てから、買うまでにどの 程度考えましたか?」   一般に複雑な商品ほど金額が高くなります。  実際、この実験でも、バイエンコルフで買っ た商品の平均価格は日本円で約10000円で あったのに対して、イケアの商品の平均価格は 約45000円でした。  ここで、衝動買いしたお客さんなど、初めて 見た商品を買ったお客さんを除外したうえで、 初めて商品を見てから時間をかけて考えたお客 さんを「意識思考者」、意識的に商品について 考える時間を持だなかったお客さんを「無意識 思考者」に分類し、実験対象者としました。  (厳密には、お客さんに聞いただけで、無意識 思考を行っているかどうか断言はできません。 先ほど、無意識思考とは、「課題に対して意識 的な注意が向けられていないときの思考」と説 明しましたが、この実験の場合、検討中の商品 に注意が向けられているか否かで分類していま す。  つまり、商品に注意を向け時間をかけて考え たお客さんを意識思考者としています。  商品に注意を向けて意識的に考えれば考える ほど、注意を向けずに無意識的に考える時間が 少なくなるからです。)  それから数週間後、それらのお客さんたちに 電話をかけて、あらためて「購人した商品につ いて、どの程度満足していますか?」と、質問 をし、その満足度を10点満点で評価してもらい ました。  その結果、バイエンコルフの商品に関しては、 意識思考者の方が、無意識思考者より満足度が 高くなったのです。  一方、イケアの商品に関しては、よく考えな かったお客さんの方(無意識思考者)が、そう  つまり、検討する条件の少ない単純な商品は、 じっくり考えた方が満足できる買い物ができま すが、家具などの複雑な商品については、「無 意識思考」を使って判断した方が、満足できる 結果が得られるとわかったのです。  私たちの生活は「無意識」に  よって支えられている  さて、ここまで何度も「無意識」という単語 を使つてきましたが、そもそも「無意識」とは 何でしょうか。  本気で解説しようとすると、それだけでI冊 本が書けてしまうので、ここでは簡単にご説明 しましよう。  無意識とは簡単にいうと「気が付いていな い」という意味です。  つまり、「無意識に思考する」というとき、 その思考に自分では気が付いていないことにな ります。  ですから、「無意識思考」について説明しよ うとするとき、多くの方は違和感を覚えるよう です。なぜなら、通常、私たちが「思考」と呼 ぶものは、「意識的に(努力を伴って)考える」 という認識を伴うからです。  メールをどう書くか考える。料理を作る手順 を考える。  大半の「考える」という作業は、自ら、意識 的に行われます。  気が付かないうちにメールの文面ができてい た。気が付かないうちに料理の手順が整ってい た。  −そんなことは、ありえません!  ですから、「無意識」と「思考」がドッキン グすることが不可解なわけです。  しかし、実はほんのちょっと見方を変えてみ ると、私たちが日常的に「無意識に思考する 力」を活用していることに気づけます。  たとえば、人と会話しているとき。  「こういう場合の接続詞は、『が』ではなく 『を』だな」  「本数を数えるとき、Iなら『ぽん』だが、2 なら『ほん』となる」  なんて考えたりはしないはずです。いちいち 文法など意識しなくても、自然と言葉が出てき ます。話の内容についても然りです。  「まずは無難に天気の話を終えたから、さっそ くランチのお誘いをしよう。店の候補はあそこ と、あそこで、もしカレーが食べたいといわれ たら……」  などと、考えながら話をしていたら相当疲れ ますし、会話はもたつくでしょう。スムーズに 話が弾むことなど到底不可能です。  もちろん、外国語であればある程度は意識し て言葉を引き出したり、文法について頭をめぐ らせたりする必要が出てくるでしょうが、母国 語を話す場合には、文法や構文といったものを 意識する必要はなく、すべて無意識のうちに、 完璧にこなしてしまえるのです。  他にも、発音やイントネーション、表情など ありとあらゆることが「無意識」によってコン トロールされることで、私たちは自由に伝えた い内容を表現することができるのです。  無意識によってコントロールされているもの は、言葉に隕らずたくさんあります。  たとえば、手を動かして物を取るとき、歩行 するとき、その筋肉の動きを詳しく説明するこ とは難しいはずです。  でも、手足を動かすことはできます。  同じように、車の運転をするときも、「この カーブは、ハンドルを何度きれば曲がれるか」 などと考えなくても、ほどよくカーブを曲がる ことができます。  こうして考えてみると、話したり、動いたり する日常の行為のほとんどは、無意識に行われ ていると気づきませんか?  朝起きて、顔を洗い、歯を磨いて、着替える といった毎日のルーティンを、ふと気づいたら いつの問にかこなしてしまっていること、まま ありますよね。最中の記憶はあまりないけれど、 ちゃんとやり終えている……。  それもまた「無意識」のおかげなのです。  人間の脳は、できるだけ楽をしようとします。  無駄にエネルギーを消費しないようにできて いるわけです。  ばしめは意識的に努力して行っていたことが、 あるときから無意識下でできるようになるのも、 そのためです。  自転車が乗れるようになった日のことを覚え ていますか?  大半の方は、まずは補助輪を付けた状態で練 習をはじめ、上手に漕げるようになったらそれ を外し、転んだり、ふらついたりを何度も繰り 返して、時間をかけてバランスの取り方を覚え、 ようやく乗れるようになったことでしょう。  これら一連の過程は、問違いなく意識的に行 われたはずです。  ところが、一度乗れるようになると、それか らは無意識的に自転車を乗りこなせるようにな ります。  足の動かし方や、バランスの取り方など意識 しなくても、あたりまえのように乗れるのは、 やはり無意識によってコントロールされている からなのです。  このように私たちの生活は、無意識によって 支えられています。  むしろ、無意識に依存しているといっても過 言ではありません。  長年にわたって無意識研究を行ってきた、 イェール大学の社会心理学者ジョンーバージに よると、日常生活における身体や脳の活動にお いて、無意識に行われているのは実に99%以上           − にのぼるといいます劉。  逆にいうと、意識的に行っていることなど I%以下とごくわずかです。  確かに、多くのことを意識的に行っていたら、 疲れて数分ももたないかもしれません。  日常生活の多くのことを無意識が処理してく れているという事実は、無意識の情報処理の容 量が桁違いに大きいことを物語っています。  今あなたは、この本を、考えながら読んでい るはずです。  そして、一旦本の内容を考えるのを止めない 限り、本の内容以外のことは考えられないと 思っているかもしれません。  しかし、本書を読んでいるまさにこの瞬間に も、自分では気が付いていないだけで、何らか の別の思考が行われているのです。  私は、この「無意識思考」こそ、これからの 時代を生き抜くために必要不可欠な思考である と考え、「第三の思考」と名付けました。  学問においては、無意識思考は近年、「シス                 ー テム3」として提唱されています加。  世界は今、人工知能(AI)の急速な進展に より、大きく変わろうとしているのは先にも述 べたとおりです。  特に仕事における影響は多大なものになるで しよう。  これまでも単純労働がコンピューターに置き 換わってきた歴史はありますが、その流れはさ らに加速するはずです。さらに、事務職など多 くの職業が、この世から消えるだろうと予測さ れています。  今後、私たち人間に求められるのは、創造性 に関わる仕事や、AIでは判断しきれない複雑 で難しい判断を意思決定することです。それが できる人が重宝される世の中になっていきます。  そして、それを可能にするのが「無意識思 考」であり、現代社会において必要不可欠、か つ最強の思考ツールなのです。 nih^c 脳も”健康”であるための食事とは  思考はあくまで、脳で行われるもの。  つまり、無意識思考をうまく活用するには、 脳の状態が良好であることが必要不可欠です。  そもそも、人間の活動のすべてを担うのが脳 ですから、脳機能が良好であるほど、思考、判 断、運動など幅広い点でいいことずくめです。  では、脳を健康に保つためにはどうすればい いのでしょう?  人間は、食べたものでできています。もちろ ん、脳も私たちが食べたものでできています。 「思考」をテーマとする本において、この点に まで踏み込んでいる本はあまりないでしょう。  私はどちらかというと、食に無頓着な人間で した。  インスタント食品を食べ、甘いものを好み、 深夜に脂っこいものを食べることもよくありま した。昼食後は強烈な眠気に襲われ、いつも体 調が悪く、年中風邪をひき、頻繁に病院に行っ ていました。  しかし、食を見直した今、病院へ行くことは ほとんどなくなり、ここ数年は、薬を飲む機会 もないほど健康です。食後に強烈な眠気に襲わ れることもなくなり、常に思考はクリアな状態 を保っています。  脳も、目も、皮膚も、身体は食べたものでで きています。  ジャンクなものを食べればジャンクな身体を 生み、それはジャンクな思考を生むのです。  身体に何を取り入れるか。  それを意識するだけで、体と思考の健康状態 は大きく変わります。  もっとも私は、脳だけに特化して良い食品が あるとは考えていません。  そうではなく、「脳に良い食べ物=身体に良 い食べ物」と考えています。  それでも、あえて「脳に良い食べ物」をあげ るとしたら、注目したいのは「油」です。そこ で、次のコラム(p105)では、脳に良い油 のとり方について、解説してみたいと思います。  「肝心なときにうまくいく」 とっておきの方法 −−無意識 思考についての”研究結果”と は? これまでは、人間の思考のやり方として、  「速い思考(システムー)」の直観性   「遅い思考(システム2)」の論理・合理性  の2つのみとされてきました。  本書はそこに第三の思考として、   「無意識思考(システム3)」  を新たに加えることを提唱しています。  私たちの選択は、3つの思考の働きによって なされているのが実態です。  難しい選択を迫られたとき、直観を使って素 早く結論を出すか、じっくり考えて答えを導く かの2択しかないと思われてきたからこそ、こ れまで「肝心なときにうまくいかない」という 事態が生まれていたのです。  しかし、本当に無意識思考はあるのだろう か?  本当に、無意識思考によって「肝心なときに もうまくいく」という状況を作りだすことがで きるのだろうか?  読者のみなさんは、まだ半信半疑かもしれま せん。  そこで、この章では、私を含めた、たくさん の学者たちが無意識思考について行った研究結 果をもとに、無意識思考がいかに私たちの生活 に、人生に、良い結果をもたらしてくれるのか について、その一端をご説明していきたいと思 います。  研究結果@   「友人」「結婚相手」「採用」  ……どんな人を選べばいい?  −−「人の本質」を明らかにする  私たちは、人生の重要な局面で「人を選択す る」という行為を行っています。  友人や結婚相手を選ぶのは、その一例です。  どんな人と関わりを持つか。それが人生を左 右することもあります。さらに、企業にとって、 採用活動は業績を左右しかねない最重要案件と いえます。  しかし、人物の選択ほど難しいものはありま せん。  人間には無数の特徴かあるからです。また、 特定の要素に引っ張られてしまった結果、良い 判断ができないこともあります。学歴を過大評 価してしまったがために、まったくコミュニ ケーション能力のない人物を採用してしまった、 というケースはよく聞く話です。  実は、「無意識思考」はこのような「人物の 選択」においても、優れた結果を出せることが、 海外で行われた実験によって明らかにされまし こ910  ご存じかもしれませんが、海外の大学では、 遠方からくる学生たちは大学の敷地内にある寮 に住むのが一般的です。  たいていは2、3人で一部屋をシェアするこ とになるため、ルームメイトがどんな人である かは、その後の学生生活の良し悪しを決めるこ とにもなりかねません。  この実験では、大学生に被験者となってもら い、架空の男性ルームメイト候補者9名に関す る情報から、どの人物をルームメイトとして選 ぶかを決めてもらいました。  それぞれの人物のプロフィールが150文字 前後で紹介されており、その中に12の性格の特 徴も書かれています。  内訳は、非常に魅力的かつコミュニケーショ ン能力が高いなどポジティブな要素を多く持っ ている人物、そこそこ魅力的な人物、不潔であ るなどネガティブ要素が多く魅力的ではない人 物が3名ずつです。  それぞれのプロフィールはランダムに提示さ れます。被験者たちは彼ら9名のプロフィール を読んだ後、次の3つの思考条件にランダムに あてはめられました。 @直観条件(システムー)  この条件では、考える時間が与えられません。  被験者はルームメイトの情報を読んだら、す ぐに自分の評価を提示します。直観的に決める ので、「速い思考(システムー)」を使って判断 するのに相当します。 A意識思考条件(システム2)  この条件では、3分間の思考時間を与えられ ます。  ルームメイトに関する情報を読んだあと、 じっくり考えることができます。思考時間が与 えられているので「遅い思考(システム2)」 を使って判断するのに相当します。 B無意識思考条件(システム3)  この条件では、ルームメイトに関する情報が 提示されたあと、3分間アナグラム問題を解く ように指示され、その後評価を行います。  アナグラム問題を解いている問は、個々の ルームメイトの評価を考えることはできません。 要するに、無意識思考(システム3)が行われ るということです。  こうして、@、A、Bの各グループの被験者 たちが、どれくらい正確にルームメイトを評価 できたのかを調べた結果、@とAではほぼ同程 度の35%前後、一方、Bでは約60%の人が正し く評価し、優れた意思決定を行ったのです ([図版9])。  この実験は、無意識思考によって正しい判断 ができるということだけでなく、人を判断する ときには、直観的な感覚を信じようが、じっく り考えてから判断しようが、その正確性という 点ではほとんど変わらないことも示唆しました。  研究結果A  私はダマされない’・  −−「嘘」を見抜く  嘘というのは、とても身近にあるものです。  誰だって、小さな嘘の1つや2つ、つくもの でしょう。詐欺事件などがなくならないのは、 嘘をつく人も、嘘を見抜けない人も、いなくな らないからです。  ただ、「これは嘘だな」とわかることもあり ます。  直観的に「どうも怪しいぞ……」と感じると きもあれば、表情や視線の動きなど相手の挙動 不審な態度をじっくり観察することで、「この 人は嘘をついているのではないか」と、疑わし く思うこともあるでしょう。  では、「無意識思考」は、嘘を見抜くのに一 役買ってくれるのでしょうか?  実はこれを明らかにするために、行われた実         − 験がありました加。  スーツを着用した大学生が、自分が参加した インターンシップに関して語る動画を、被験者 たちに8パターン見てもらいました。  それぞれの動画では、「インターンシップの 内容」と「インターンシップの好きな点、嫌い な点」について語られるのですが、実は、本当 に参加したインターンシップについてありのま まに真実を語っている人と、あたかも参加した ことがあるかのように作り話をしている人がい たのです。  真実を語っている動画も、嘘を語っている動 画も、同じ時間になるように調整されています。 さらに、8種類の動画のうち真実の動画と嘘の 動画がどれくらいの割合で混ざっているか、被 験者には知らされませんでした。  被験者たちは、3つの思考条件に分けられま した。 @直観条件(システムー)  動画の視聴前に、嘘を語っている人がいるこ とを説明してから、視聴後すぐに虚偽判断をし てもらう。 A意識思考条件(システム2)  動画の視聴後に、嘘を語っている人がいるこ とを説明し、3分間じっくり考えたあとに虚偽 判断をしてもらう。 B無意識思考条件(システム3)  動画の視聴後に、嘘を語っている人がいるこ とを説明し、別の関係のない課題を3分間やっ てもらってから、虚偽判断をしてもらう。  虚偽判断の正確性を調べた結果、無意識思考 条件が他の2条件と比較して、飛び抜けた正確 さを示したのです([図版10])。  しかしこの実験では、直観条件において、嘘 つきがいることを先に説明してから虚偽判断を 行わせていたため、動画を見ている問に「嘘を ついているのではないか」と疑いの目で見て、 虚偽の証拠集めをしていた可能性があります。  そこで、嘘つきの存在を動画の視聴後に明か してから、すぐに虚偽判断してもらう直観条件 に変えて追加の実験を行ったところ、それでも B無意識思考条件での判断が、どの思考条件よ りも正確だったのです。  要するに、嘘か真かの判断は、あわてて結論 を出すよりも、一端脇に置いて、忘れてしまっ た頃に、あらためて考えてみたほうが、良い判 断ができるということです。  研究結果B  後悔はI切なし’・  −−大満足のお買い物ができる  みなさんは、お買い物をするとき、品数の豊 富なお店を選びますか?それとも、商品が厳選 された品数の少ないお店に行きたいでしよう か?  品揃えの多さは、お店としても、お客さんに とっても、利点が多いと考えられています。お 客さんは商品の選択肢が多ければ、自分の希望 にぴったりの商品を見つけやすくなるでしよう し、何よりたくさんの種類の中から選ぶという 行為そのものを楽しめます。  しかし一方で、品揃えの多いお店でお買い物 をすることが、必ずしも満足のいく結果につな がるとは限らないようです。ある研究によると、 少ない選択肢の中から商品を選んだほうが、か えって満足度は高くなるという結果が出ていま す割。  なぜ、選択肢が多いと満足度が低くなるので しょうか。  それは。情報過多”という現象が起きるから です。  人が意識的に考えられることには、限界があ ります。情報が多すぎるとかえってストレスに なり、頭がパンクして、良い判断ができなくな るのです。  たくさんの商品の中から迷いに迷ったあげく 1つを選び、買って帰ったものの、あとから振 り返ると別の商品の方がよかったかも……。  こういう後悔は、誰にでも経験があるはずで す。  できることなら、品揃えの豊富なお店であれ やこれやの商品を見て、存分に楽しんだ上で、 ぴったりのものを選び、家に帰ってからも大満 足できるようなお買い物がしたいですよね。  これもまた、「無意識思考」を上手に活用す ることで、解決できてしまうのです。  被験者に複数あるチョコレートの中から1つ を選んでもらう、という実験が行われました I 刈。被験者のうち半分は6種類のチョコレー トから、もう半分は24種類のチョコレートから 選びます。  6種類から選ぶ人たちも、24種類から選ぶ人 たちも、それぞれ@直観条件(システムー)、 A意識思考条件(システム2)、B無意識思考 条件(システム3)の3つの思考条件にランダ ムに割り当てられました。  それぞれの条件でチョコレートを選んだのち、 被験者たちには7点満点で選んだチョコレート の満足度を評価してもらいました。  その結果、6種類という少ない選択肢の中か らチョコレートを選んだ人は、@の場合も、A の場合も、同じくらいの満足度であり、かつB よりも高い満足度を示しました([図版11])。       !一      一   み      一 亅       6265.8 価54 52、4.8 一      旧  一方、24種類という多くの選択肢の中から選 んだ人は、Bの無意識思考条件(システム3) で選んだ人たちの満足度が他より高く、また選 択肢が少ない場合をひっくるめても、最も高い 満足度を示したのです。  つまり、無意識思考を活用することで、品揃 えの多いお店でのお買い物に失敗することがな くなるばかりか、品揃えの厳選されたお店でお 買い物するよりも満足できるようになるわけで す。  また、仮に品揃えのよいお店が見つからな かったときには、直観的に、もしくはじっくり 考えてから選ぶことで、良い選択ができます。  お店のスタイルに合わせて思考を使い分ける ことで、いつでも自分の満足度を高められると いうわけなのです。  研究結果C  ビジネスにおいても役に立つ!・  −−クライアントの難しい要望にもきつちり  応えられる  ビジネスにおける無意識思考の活用の仕方に ついても、触れておきましよう。  複雑な条件での意思決定はもちろん、人事の 面でも無意識思考が良い選択を導き出すことは 先にも述べたとおり。  その他にも、クライアントからの要望に見 合った提案をしなければならない場合なども、 無意識思考は役に立ちます。  たとえば、引っ越しを検討するために不動産 屋にいらっしやったお客さんに、物件をご提案 する場合。  お客さんの希望する家賃や立地、間取りなど、 さまざまな条件を伺ったうえで、要望に沿うよ うな物件を探さなければなりません。不動産屋 としての腕の見せ所であり、いかに要望に応え られるかで、クライアントの満足度にも影響し ます。  クライアントの要望に沿えるかどうかという 状況は、その他にも車のディーラーであったり、 転職を斡旋する業種であったり、さまざまなビ ジネスにおいて見られるものでしょう。そして、 これらの状況をうまく乗り切るために活躍する のも、無意識思考なのです。                   −  これを明らかにした実験があります加。  被験者には、不動産代理店の担当者になった つもりで、架空の4つのアパートについての情 報を読んでもらいます。  その後、クライアントの要望を提示し、どの アパートをクライアントにすすめるべきか選択 してもらいました。  4つのアパートについてはそれぞれ、24の特 徴を用意しました。そのうち15項目はポジティ ブな要素(静かな場所にある、など)、残りの 9項目はネガティブな要素(騒がしい場所にあ る、など)です。  クライアントの要望は12項目(静かな場所に ある・駐車場完備など)あり、すべての要素を 満たしているのは、4つのアパートのうち1つ しかありません。  被験者は、例のごとく@直観条件(システム ー)、A意識思考条件(システム2)、B無意識 思考条件(システム3)の3条件に、ランダム に割り当てられたうえで、それぞれが最も要望 に合うと思うアパートを選択しました。  その結果、最もクライアントの要求を満たせ るアパートを選べた割合が多かっだのは、Bの 無意識思考条件(システム3)に割り当てられ たグループだったのです。  クライアントの複雑な要望にもぴったり添え るような提案をするためには、直観で決めたり、 じっくり時間をかけて考えたりするよりも、無 意識思考をうまく利用したほうが、より良い選 択ができるようです。  これらのほかにも、病気の診断にも無意識思 考はよい判断をもたらしてくれることが科学的           − に検証されています恂。  ここまで無意識思考の心理学研究についてご 紹介しました。  無意識だけれど、脳の中では  ”積極的”に考えている  無意識思考は「思考」ですから、「速い思考」 「遅い思考」と同様、脳が行っているものです。 「速い思考」「遅い思考」が行われているときの、 脳の領域については先にも説明したとおりです が(p32)、では「無意識思考」の場合、脳内 は一体、どうなっているのでしょうか?  本当に「無意識思考」というものがあるとす るなら、脳内現象として現れるはずです。物的 証拠(脳内現象)があれば、「確かに、無意識 思考は存在する」といえるのではないでしょう か。  さらに、それらを司っている脳領域が判明す れば、無意識思考のメカニズムを解明すること も可能になります。  そこで私は、「無意識思考中の脳内メカニズ ムの解明」という難題に挑戦しました。  研究を進めるにつれて、世界にたった1つ、 無意識思考と脳科学に関する研究論文があるこ とがわかりました。  それは、カーネギーメロン大学の認知科学者 クレスウェル准教授らが行った研究です到。  彼らは、無意識思考を使って車などの消費財 (アイテム)の評価をしているとき、脳はどう なっているのか、最新の脳計測装置であるfM RI(機能的核磁気共鳴画像法)を使って調べ ていました。  クレスウェル准教授らは、実験をするにあ たって以下のような仮説を立てました。  無意識思考の認知メカニズムは、神経再活性 化仮説(Neural reactivation hypothesis)によっ て説明できるのではないかというものです ([図版12])。  これまでみてきたように、無意識思考実験の 無意識思考条件では、情報の提示↓妨害課題 (無意識思考)↓意思決定、という流れになり ます。  この仮説は、情報の提示がされた段階で脳は 与えられた情報を処理していきますが、その情 報処理が妨害課題中(つまり無意識思考中)も 継続しているはずだと考えるものです。  この脳の再活性化というプロセスは、睡眠時 など意識的注意が向けられていなくても起こり うることは、これまでの脳科学研究でわかって います。  よく寝ることで記憶が定着するとか、学習効 率が上がるなどといわれますが、それと同じよ うなことが、無意識思考中にも起きているので はないかと考えたわけです。  実験の結果、アイテムを提示しているときと 無意識思考中に、共通して活動している脳領域 があることがわかりました(【図版13】)。  それは、「背外側前頭前野」と「視覚野」で す。  背外側前頭前野は、計算や思考するときに活 動する領域で、思考を担う脳の最高中枢です。 一方、視覚野は文字通り、視覚情報を処理する 領域です。  さらに、この研究では、無意識思考は意識思 考時と異なる脳領域が関与していることも明ら かにされました。  ただ私は、大変興味深いとは思いましたが、 この研究で彼らが提唱する「神経再活性化仮 説」について疑問を持ちました。  これまでの無意識思考研究では、無意識思考 の認知メカニズムとしてこの仮説を唱える研究 者はおらず、無意識思考研究の蓄積を踏まえて いないように感じられたのです。  さらに、背外側前頭前野は計算などの、意識 思考中に活動する脳領域であることが多くの研 究で示されているため、「無意識思考中は、意 識思考を超える何らかの認知メカニズムが働い ているはずだ」という期待と反する結果でもあ りました。  むしろ、意識思考中に活動する脳領域が特定 されたため、ある意味矛盾するようにも考えら れたのです。  加えて、この研究では車などの消費財を意思 決定の対象としていましたが、これまで見てき たように無意識思考はさまざまな意思決定の対 象でその効果が検証されています。  つまり、消費財の評価以外の課題を加えるこ とで、無意識思考が関与する脳領域は固定化さ れているものなのか、または、課題ごとに異な るのかを知ることができるのではないかと仮定 したのです。  そこで私は、彼らの研究を参考にしつつ、問 題点を改善し実験を行いました。  まず、無意識思考の認知メカニズムとして、 全体論的表象仮説(Holistic representation hypothesis)を立てました([図版14])。  これは私のオリジナルの仮説ではなく、これ までの無意識思考研究で提唱されてきた仮説で す。  詳しくは、第4章で述べますが、無意識思考 では、さまざまな形で情報の統合が行われると 示唆されてきました。  個々の情報ではなく、全体の情報をもとに思 考がされること、また、それぞれの情報の重要 性を価値判断するといった処理が、無意識思考 中に積極的に行われると仮定します。  つまり、大量の情報を処理しつつ価値判断を 行うことから、全体論的表象と呼ばれるのです。  さらに、私は車などの消費財評価課題に加え、 人物評価課題を実験課題として用いました。  人物評価課題を加えることで、意思決定の対 象ごとの脳メカニズムを比較することが可能と なります。無意識思考には個人差があることを 踏まえ、無意識思考を使って良い選択ができる 人の、無意識思考中の脳活動をfMRIを使っ て調べることにしました。  その結果、驚くべきことがわかったのです 割O 言言卜UU鶏ド が活動していました(【図版15】)。      匸J  楔前部は、さまざまな脳領域と機能的に関係 することがらバブ”領域として知られていま す。さまざまな脳領域からの情報を全体的に統 合する領域です。  さらに、人物評価時における妨害課題中の脳 活動からは、無意識に人の好き嫌いを判定して いる可能性があることが示唆されました。  一方、消費財評価時の無意識思考中の脳活動 からは、提示された消費材の立体的イメージを 作り、それらをあたかも使用しているかのよう にシミュレーションしていた可能性があること が示唆されました。  つまり、無意識思考中は、情報の統合や価値 判断などが脳内で起こっている可能性が高いこ とがわかったのです。  これは、全体論的表象仮説と整合すると考え られます。  この実験結果から、無意識思考といっても、 その選択や評価の対象によって、使用する脳領 域が違っており、無意識思考が発生するプロセ スは、対象によって異なることがわかりました。  さらに、私の実験データから神経再活性化仮 説の検証を試みましたが、有意な脳活動は検出 されず、無意識思考中は積極的な情報の統合が 行われているのではないかと推察されました。  とはいうものの、無意識思考はさまざまな課 題でその効果が検証されていますが、その認知 メカニズムに関しては、現在のところ世界に2 例しか研究がありませんから、まだ仮説段階で す。  無意識思考を使って嘘を見抜いているとき、 数多くの選択肢から商品を選ぶとき、クライア ントの要望に応えるときなど、脳内はどうなっ ているのか現在のところわかりません。  そのため、他の課題でも、その認知メカニズ ムが解明されない限り、無意識思考の全容解明 は進みません。  しかし、2例しかないものの、無意識思考中 の認知メカニズムについての、脳活動が検出で きているという共通点から、その思考中は積極 的な。思考”が生じているという仮説には、か なりの信憑性があるのではないかと考えていま す。 !il ポイントは「オメガ3」  人間の脳の約60〜70%は、脂質でできている といわれています。  実際、人の脳は脂でべ卜べ卜です。  だからこそ、脳の健康には良質な油を摂るこ とが欠かせません。また十分な油がないと脳は 乾燥し、十分な機能を果たせなくなるのです。  ただ、油といっても、含まれる脂肪酸の種類 によってその種類は分かれます。  大まかには、バターなど動物性の油に多く含 まれる飽和脂肪酸と、植物性の油に多く含まれ る不飽和脂肪酸の2種類です。  さらに不飽和脂肪酸のうち、アマニ油やえご ま油に多く含まれる「オメガ3」と、ほとんど の植物油に含まれる「オメガ6」は、体内で作 ることができず食事で補うしかないため「必須 脂肪酸」と呼ばれます。  現代の食生活で問題なのは、圧倒的にオメガ 6を摂りすぎてしまう点です。  オメガ6は身体の炎症を促進させる作用があ り、逆に不足しがちなオメガ3には炎症を抑制 する働きがあります。  ですから、脳の健康を保つためには、意識し て積極的にオメガ3を摂る必要があるわけです。  ただ、オメガ3が多く含まれるアマニ油やえ ごま油は熱に弱いので、炒めものなどには向き ません。そのままドレッシングとして活用する など、常温で利用するのがおすすめです。  ちなみに、スーパーなどでは、いろいろな種 類が売っていますが、できれば低温圧搾(コー ルドプレス)で加工され、光の入らない容器に ボトリングされた商品を選びましょう。  さらに、有機栽培のものであればベストです。  驚くべき無意識思考の5つの特  徴  私たちが。思考”という言葉を聞いたとき、 真っ先に脳裏に浮かぶのは。じっくり考える” という意識思考のことでしょう。これまでは、 思考とは意識思考のI種類であるというのが私 たちの共通認識だったと思います。  しかし、思考には「無意識思考」というモー ドがあるということは、本書でこれまでに何度 も述べてきたとおりです。  つまり、思考には「意識思考」と「無意識思 考」の2つのモードが存在するのです。  たとえば、「次の休み、札幌へ旅行に行こう か、博多にしようか」と迷っていたとします。 このとき、「札幌は海鮮がおいしいし、今の時 期、爽やかな自然も楽しみたい……」などと じっくり考えて、「よし!札幌に行こう!」と 決めたとしたら、これは意識思考を使って意思 決定したことになります。  一方、条件などを一通り把握したあと、考え るのをやめて放置し、翌日になって「やっぱり 博多へ行こう!」とひらめいたとしたら、その 瞬間は意識的なものですが、そこに至る過程は 無意識的なものであったといえます。  つまり、「意識思考」と「無意識思考」を分 けるものは、問題に対して「注意」を向けてい るか否か、という点です。  「意識思考」では、問題に対してかなりの注意 を向ける必要がある一方、「無意識思考」では、 問題に対して注意を向けず、他の対象に注意を 向けている時間を必要とします。  人間の思考というものを考えたときに、この 2つのモードがあると認識することは非常に重 要となります。  2つの思考モードを分ける点は、注意を向け ているか否かの違いであると述べましたが、両 者はまったく関連がないわけではありません。  意識思考が、意識的プロセスのみで構成され るとは限らないからです。  たとえば、私たちが話をするとき、それ自体 は意識的なものです。  しかし、「話をする」という行動の背後では、 文法、言葉の選択など、無意識的な活動が多く なされているのは、先にも書いた通りです。  このように、意識的なプロセスには、無意識 的なプロセスが同時に起こりうるのです。  ここからは、無意識思考についての理解をさ らに深めてもらうために、無意識思考が持つ5 つの特徴についてまとめてみたいと思います 刎O   特徴@   情報処理に制約がない   (容量上限の原理― The Capacity   Principle ―)  「意識思考」と「無意識思考」の大きな違いの 1つは、前者が情報処理の制約を受ける点です。 意識的に扱える情報量には限りがあります。  試しに、次に挙げる事柄について、意識的に、 すべて同時に考えてみてください。  「今晩の夕食のメニュー」  「次の休日にでかける場所」  「今欲しいもの」  どうですか?  別々に、もしくは順番に考えることはできて も、すべてを同時に考えることはできないはず です。  意識思考はこのように限定的であり、一度に 1つのことしかできません。  ちなみに、人が意識的にできる情報処理は 10〜60ビット/秒であるといわれています。今、 みなさんがこの文章を読んでいるとき、脳内で は概ね45ビット/秒程度の情報処理が行われて いると考えていいでしょう。  一方で、人間の情報処理量はII。200。 000ビット/秒あるといわれています。視覚 システムの処理だけで、10。000。000 ビット/秒の情報が処理できるとされています (具体的な数字には諸説あるので、あくまで概 算と捉えてください)。  ここで理解してほしいのは、意識的処理の容 量が非常に小さいことです。  意識的思考で使える容量が、人間の情報処理 システムに占める割合はほんのわずかにすぎま せん。  人間が一度に記憶し、即座に思い出せる数に は、限度があることが知られています。  その容量の小ささを象徴する研究結果では、 人が瞬間的に記憶できる数は、7つ前後である              I ことがわかっているのです到。  これは、心理学用語で「マジカルナンバー フ」と呼ばれています。  たとえば、まったく知らない携帯電話の番号 を、誰かにいってみてもらってください。携帯 電話番号は11桁あるので、たった一度聞いただ けで、即座に詰んじるのはかなり難しいと感じ るはずです。  意識思考はその容量の制約のため、情報量が 大きくなると、うまく機能しなくなってしまう のです。  しかし、「無意識思考」の情報処理の量は、 「意識思考」に比べて桁違いに大きいのです。 これこそ、無意識思考の1つめの特徴です。  研究者らは、これを検証するために次のよう           − な実験を行いました珀。  架空の4つのアパートについてそれぞれ15の 特徴を提示し、4つの中から最も良いアパート を選択してもらいます。4つのうち1つだけが、 非常に望ましいアパートでした。  例のごとく、被験者たちは、 @直観条件(システムー)  情報提示後、すぐに選択する。 A意識思考条件(システム2)  情報提示後、3分間考える時間が与えられた あと、選択する。 B無意識思考条件(システム3)  情報提示後、3分間妨害課題が課されたあと、 選択する。  の3条件に、ランダムに割り当てられました。  その結果、最も良いアパートを選択できたの は、@で36%、Aでは47%、Bでは59%となり、 無意識思考条件(システム3)は他の思考条件 よりも正確に選択できていることがわかりまし た。  さらに、それぞれのグループの被験者には、 選択する際にどれだけの情報量をもとに決定し ていたのか調べるために、次のような質問が追 加されました。  「あなたは選択する際に、  口 1つか2つの特定の情報をもとに判断し    ましたか  口 情報全体を考慮し判断しましたか」  実験の結果、の情報全体を考慮して選択した と回答した被験者は、@42%、A27%、B56% となって無意識思考条件(システム3)が他を 上回り、Aの被験者の70%以上が、1つや2つ の特定の情報をもとに判断をしていたことがわ かりました。  この結果から、より多くの情報から判断した ほうが、より良く、より正確な選択ができると 考えられるのです。そして意識思考では扱えな い容量のデータを扱うことができる無意識思考 は、情報処理でその力を十分に発揮できるとい えます。   特徴A   適切かつきちんと評価ができる   (重みづけの原理― The Weightiコg   Principle ―)  「無意識思考」の2つめの特徴は、「重みづけ」 ができること。  重みづけとは、各評価項目を点数化して、総 合的に評価する方法です。  要するに、意思決定に関する情報のどれが重 要で、どれが重要でないかを、適切かつきちん と評価するということです。  これがうまくいかないことで、間違った選択 をしてしまうことは往々にしてあります。  たとえば、会社で採用面接をするとき、「コ ミュニケーション」「素直さ」を重視するとい う方針が決まっていたにもかかわらず、実際に はその人のルックスであったり、学歴であった り他の条件が魅力的に映ってしまい、迷って じっくり考えた結果、方針に沿わない採用をし てしまうことはままあります。  いざ仕事をさせてみたら、コミュニケーショ ン能力に乏しく、自分本位な人物とわかり、か えってお荷物な社員になってしまった……。  この例は明らかに、「重みづけ」のミスが引 き起こしたことによる失敗です。  意識思考は、バイアスのかかった選択をしが ちなのです。  ある研究で、被験者に芸術的なポスターを選                − んでもらう実験が行われました湘。  被験者は2つのグループに分けられ、1つの グループには、ポスターを選んだ理由について かなり詳しく説明してもらいました。もう片方 のグループには、特に説明を求めませんでした。  数週間後、あらためてそれぞれのグループに 対し、選んだポスターへの満足度を調べたとこ ろ、説明を求めなかったグループの方が、満足 度が高いことがわかったのです。  この差は、意識思考が理解しやすいもの、 もっともらしいと思われるもの、言語化しやす いものに、誤って重みづけしてしまう傾向を 持っているからであると考えられました。そこ で、別の研究者らは、この仮説を検証するため           I の実験を行いました功。  被験者は5枚の芸術的なポスターから1枚を 選び家に持って帰るように依頼され、例によっ て3つの群に分けられました。 @直観条件(システムー)  ポスターをチラ見して、すぐに最も良いと思 われる1枚を持ち帰るように指示された。 A意識思考条件(システム2)  各ポスターについて、それぞれ90秒問(‥計 450秒問)考える時間が与えられた。そして、 考えながら、各ポスターの良い点、嫌いな点な ど自分の考えを紙にメモするように求められた。  それから、最も良いと思われる1枚を持ち帰 るように指示された。 B無意識思考条件(システム3)  一通りポスターを見た後、450秒問の妨害 課題(ポスター選択とまったく関係のない課 題)が課された。  それから、最も良いと思われる1枚を持ち帰 るように指示された。  数週間後、実験者はそれぞれの被験者に電話 を掛け、選んだポスターについてどれくらい満 足しているか尋ねました。その結果、無意識思 考条件の被験者は、他の2つの条件の被験者に 比べて満足度が高いことが判明しました。  さらに、おもしろい発見もありました。  被験者に、選んだポスターをいくらで売りた いか尋ねたところ、無意識思考者は意識思考者 より平均で約2倍の値段をつけたのです。  これらのことから、無意識思考では、さまざ まな属性の相対的な重要性について、自然な重 みづけをすることができるとわかります。  そのため、バイアスに囚われず、より正確な 選択ができるというわけなのです。  特徴B  バイアスがかからない   (ボトムアップ処理とトップダウン処理の原   理 1.「he Bottoヨーcp vs Top-Dowコ   Principle ―」  人間の情報処理のやり方には、「トップダウ ン処理」と「ボトムアップ処理」があります。  「トップダウン処理」とは、すでに持っている 知識などを前提に、見たり、聞いたり、読んだ りするものを理解する方式のこと。  たとえば、「血液型ごとに性格が異なる」と いう仮説を持っている大は、A型と聞けば「あ なたは几帳面」、O型の大には「おおらかだね」 と、血液型だけで、その人の性格、特徴を作り 上げてしまいます。  その人の実際の言動やふるまいなどは、蚊帳 の外です。  一方、「ボトムアップ処理」とは、見たり、 聞いたり、読んだりするものについて、それぞ れを構成する要素をバラバラに分析し、認識す る方式です。  たとえば、人の性格や特徴を作り上げるにあ たって、血液型や外見にとらわれることなく、 言動やふるまいなどを注視し、時間をかけて行 います。  もちろん、ボトムアップ処理の方が時間はか かりますが、バイアスがかかりません。  そして、「意識思考」はトップダウン処理を 行い、「無意識思考」はボトムアップ処理を行 うことがわかっています。                     −  これは次のような実験で検証されました湘。  私たちは、ある国や民族の人たちに対してス テレオタイプな見解、つまり固定観念を持って います。  日本人であれば、「勤勉である」「礼儀正し い」などがあてはまるでしよう。  ある研究者はオランダ人の被験者に、架空の 大物の印象を評価させる実験を行いました。そ の架空の人物は、オランダに住む少数民族で、 オランダ大であれば概ね似たようなステレオタ イプな印象を持っていると考えられます。  その大物の性格特徴は全部で24あり、そのう ち12はステレオタイプな特徴(社交性など)、 6つはステレオタイプではない特徴(知性な ど)、残り6つはそのどちらにもあてはまらな いニュートラルな特徴でした。  これらの特徴か、パソコンの画面に7秒間ず つランダムに提示されたあと、被験者は意識思 考条件と無意識思考条件の2つに割り当てられ ました。  意識思考条件では、提示された人物の印象を 7分間考えてから、人物の印象について答えて もらいました。  一方、無意識思考条件では、7分間、印象形 成とはまったく関係のない課題に従事し、それ から人物の印象を答えてもらいました。  その結果、意識思考者は、無意識思考者より ステレオタイプな特徴をもとに人物を判断して いることがわかりました。  「意識思考」は、事前知識や期待などに影響さ れてしまうため、バイアスのある情報処理が行 われがちです。そして、ややもすると、結論あ りきで思考しがちです。「結論はこうであろう」 という思い込みに、気がつかないまま思考して しまうことがあります。  一方、「無意識思考」は、時間はかかるもの の、膨大な情報をまとめ、統合して情報処理が なされます。その結果、偏りのないより正確な 結論を導き出せるということなのです。   特徴C   斬新なアイデアを生み出せる   (収束と発散の原理― I ne convergence vs   Divergence Principle ―)  ここまで挙げた無意識思考の特徴は、選択や 意思決定に関係したものでしたが、この4つめ の特徴は、クリエイテイビテイ(創造性)と密 接な関係性があります。  創造的な思考には、「収束的思考」と「発散 的思考」の2種類があります。  「収束的思考」とは、与えられた情報を論理的 に推論し、答えを導く思考です。  唯一の解答がある計算問題を解くときなどに、 必要とされます。  一方、「発散的思考」とは、与えられた情報 から考えをめぐらせることで、新しいものを生 み出すときに必要とされる思考です。  日本人は学校教育において、相当の時間をか けて「収束的思考」を教えられます。  逆に「発散的思考」はほとんど必要とされな いのですが、社会に出ると、急にその思考を駆 使するように求められはじめ、戸惑う人も多い はずです。  「収束的思考」と「発散的思考」については、 言及されているビジネス書も少なくないので目 新しさはないかもしれません。  しかし、この2つの思考を使い分ける方法ま で説明している本は、あまり見当たりません。 それもそのはず、これまでの考え方には、肝心 な点が抜け落ちていました。収束的思考は意識 思考に、発散的思考は無意識思考に、それぞれ 対応しているのです。  つまり、斬新なアイデアや、誰も思いつかな いような着想を得たければ、無意識思考を活用 すべきだといえます。  「無意識思考」が創造性を向上させることを明                  − らかにした、海外の研究があります到。  被験者には、新しいパスタの名前を、思いつ く限り作成するように依頼しました。  その上で、具体例としてアルファベットの yjで終わるパスタ名を5つ、紹介しました。  被験者は例によって、3つのグループに分け られました。 @直観条件(システムー)  1分間で、新しいパスタ名を思いつく限り挙 げるように指示された。 A意識思考条件(システム2)  3分間考えた後、1分間時間を与えられ、新 しいパスタ名を思いつく限り挙げるように指示 された。 B無意識思考条件(システム3)  妨害課題に3分間取り組んだ後、1分間で新 しいパスタ名を思いつく限り挙げるように指示 された。  そうして、被験者が作成したパスタ名の数が どれほどだったか、@、A、Bの結果を比べて みたのです。  ちなみに、作成されたパスタ名に既存のパス タ名と同じものがあった場合、それらは除外さ れました。また、作成されたパスタ名のうち yjで終わるものを「収束的アイテム」、それ 以外を「発散的アイテム」として分類しました。  分析の結果わかったことは、第一に、「収束 的アイテム」のほうが「発散的アイテム」より もたくさん作成されていたことです。  さらに、思考条件で比較すると、B無意識思 考条件(システム3)は「発散的アイテム」を より多く作り出しだのに対して、@直観条件 (システムー)とA意識思考条件(システム2) では、「収束的アイテム」のほうが多く作られ ていたのです。  つまり、意識的に新しいパスタ名を考えよう としても、ありきたりになってしまうのに対し て、無意識思考を活用すれば、より斬新な名前 を生み出せることがわかりました。  これは要するに、意識思考が事前に与えられ た情報に影響されやすいのに対し、無意識思考 は事前情報に影響されずに、よリクリエイテイ ビテイを発揮できるということです。  この3つの思考の差を知っておくと、クリエ イティビティを求められやすいビジネスの場面 で、うまく活用することができます。  たとえば、上司から新規事業を提案するよう に求められたとします。  このとき、事前に過去に実施された事業を サーベイすることは、一見まっとうな手段のよ うに思えますが、むしろ過去の情報に影響され て似たり寄ったりの新規事業しか提案できない、 などということになりかねません。  そもそも、「新規事業の提案」を求められる 裏には、上司の「よく考えなさい」という意識 思考を促すかのようなメッセージが暗黙のうち に刷り込まれているので、より創造性を発揮し にくくなるのです。  こういうときこそ無意識思考の出番といえま す。  もっとも、まったくのゼロから発案するのが 難しく、どうしても過去の事例にあたってしま う人はいるでしょう。  しかし、そういう場合でも、意識思考より無 意識思考の方が、創造性を発揮できるのは実験 のとおりです。  これを活用しない手はありません。 特徴D 計算問題は解けない  (ルールの原理― The Rule Principle ―) 次の計算をしてみてください。 電卓は禁止ですよ。 9x19=?  答えは171.  どのような計算の過程を経たにしろ、みなさ んはおそらく「意識思考」を使って、じっくり 考えられたことでしょう。このような計算は、 「意識思考」が最も得意とする分野です。  逆にいえば、この手の問題は「無意識思考」 では対応できません。  言い換えるなら、「意識思考」はルールに従 うことができますが、無意識思考は苦手なので す。ルールに従えないのが、無意識思考の5つ めの特徴です。  無意識思考もまったくルールに従えないわけ ではなく、概算や見積もりくらいならできるの ですが、算数の計算問題で正確な答えを出すに は、意識思考で考える必要があります。  一度問題を頭に入れておき、そのあとまった く関係のない他のことをやって、いくら無意識 思考を働かせようとも、計算問題がいつの間に か解けたというようなことにはならないわけで す。  誰もが”いい変化”をどんどん  起こせる  ここまで、無意識思考の特徴を説明してきま した。  隕られた情報から正確な判断をしたり、単純 な選択を行ったりするときには、「意識思考」 のほうがよい選択ができるものです。  一方、複雑な選択を行うときには、扱える情 報処理量が格段に大きい無意識思考のほうが、 正確な選択をするのに向いています。無意識思 考は時間はかかりますが、大量の情報に適切な 重みづけをして、バイアスのかからない評価を 見出すことができるからです。  また、収束的思考を主とする意識思考よりも、 発散的思考を主とする無意識思考のほうが、よ リクリェイティビティを発揮するのに役立つの は、先にも述べたとおりです。  つまり、無意識思考は、創造性をも向上させ ます。  これは、ひいては人の「隠れた能力」を開花 させることにつながります。  ビジネスにおいて「隠れた能力」を開花させ るとは、わかりやすくいえば、類まれなるアイ デアを生み出せるということです。  無意識思考を活用すれば、たとえば折れたら 使えなくなる傘を、あえて折って持ち運びしや すくした折りたたみ傘が登場したときのように、 小さな変化で世の中を大きく変えるイノベー ションを生み出すことも夢ではありません。  ところが、こういう話をすると、  「創造性など、一部の隕られた人に与えられた、 天賦の才能だ」  と、端から諦めてしまう人も多いのです。  確かに、著名なアーティストや小説家、科学 者、名の知られた経営者など、先天的な能力に 恵まれたように見える方もいますが、彼らの中 には、人よりも「無意識思考」を非常にうまく 活用できるからこそ、成功している方もいるか もしれません。  というのも、著名人の残した文章や発言をひ もといてみると、どうやら無意識思考を使って いるようだと読み取れる部分が少なからず見つ かるのです。  そこで、偉業を成し遂げた歴史的人物たちの 証言を通して、どのようにして創造的問題解決 を行っていたのか、見てみることにしましよう 剛O  35年という短い生涯の問に、1000曲に近 い名曲を世に送り出したオーストリアの天才音 楽家モーツァルトは、次のような言葉を残して います。  「私は、食事の後の散歩、あるいは夜中に一人 で眠れないとき、そういうときに、思い付きが 最もたくさん流れ出る。しかし、どこから、ど のように現れてくるのかはわからない」  もちろん、思いついたその旋律を楽譜に落と し込み、素晴らしい一曲に仕上げられたのは、 彼の音楽に関する豊富な知識と、卓越した才能 のなせる技です。  一方で、このモーツァルトの証言からわかる のは、モーツァルトが美しい旋律を生み出した きっかけは、無意識思考を使っているときの感 覚に非常に近いものがあったということです。  そして、同じく天才的音楽家と名高いロシア のチャイコフスキー。バレエ音楽『白鳥の湖』 をはじめとして、誰もが聞いたことのある名曲 を数多く残した人物です。  彼もまた、  「新しい曲の萌芽は、いつも何か他のことをし ているときに突然やってくる」  という言葉を残しています。説明するまでも ないでしょう。彼もまた、無意識思考によって 美しい曲を生み出していたことがうかがえます。  同じような証言を残しているのが、フランス の数学者アンリーポアンカレ。  数学者、物理学者、天文学者として数々の偉 業を成し遂げ、特に「トポロジー」という新し い数学の概念を発見して、「ポアンカレ予想」 を提言したことで知られます。  あるとき、彼は証明問題を解こうと15日間、 毎日机に向かい取り組んだものの、結論には至 りません。ある晩、いつもは飲まないブラック コーヒーを飲んだら、眠れなくなってしまった そうです。すると、いくつもの構想が雲のよう に湧いてきて、証明問題を解く糸囗になったと いいます。  また、地質学の調査旅行にでかけたときのこ  数学のことはすっかり頭になかったのに、 クータンスという町で乗合馬車のステップに足 をかけたとき、ふいに、ある証明問題を解決す るときに用いた変換が、非ユークリッド幾何学 の変換と同じであることに気が付いたのです。  ちなみに、ポアンカレは朝10時からの2時間、 午後17時からの2時間、1日計4時間しか、数 学の仕事をしなかったといわれています。  歴史的な偉業を残した彼が怠慢であったわけ はなく、自覚的ではなかったでしょうが、おそ らくは「無意識思考」をうまく使う方法を心得 ていたに違いありません。  なぜなら、1日4時間という仕事時間が重要 であるなら、10時から14時までまとめて時間を とるといったやり方でもよかったはずです。  しかし、彼はそうしませんでした。問に数学 に関わらない時間を設けました。  これこそが、彼が無意識思考を活用して、偉 大な業績を成し遂げてきたという証拠ではない でしょうか。  もっとも、すべて推測ではないかといわれれ ばそれまでですし、さらには歴史的な作曲家や 数学者ですから、こんな例では参考にならない、 と思われた方もいるかもしれません。  そこでご紹介したいのが、ソニーの創業者で ある盛田昭夫氏の言葉です。  彼もまた、無意識思考の活用をほのめかす言 葉を残しています。  盛田氏といえば、日本初のテープレコーダー やトランジスタラジオ、そしてウォークマンを 世界に売り出し、ソニーを日本を代表する世界 ブランドに押し上げた人物です。  特に、ウォークマンは歩きながら、移動しな がら音楽が聴ける製品として世界中で爆発的に ヒットしましたが、その製品化を思いついたの が、盛田氏であるといわれています。  そして彼は、革命的ともいえる商品を生み出 す源泉となった創造性について、次のように述 べています。  「機械やコンピューターには創造はできません。 創造には既存の情報処理以上のものが必要だか らです。人間の思考、ひらめき、そして多くの            I 勇気が必要なのです」川  そうです。  盛田氏は、機械的な情報処理では創造はでき ない、とはっきりといっています。  そのうえで、既存の情報処理以上の何かI つまり、人間の思考やひらめきといったものが 必要であると断言しています。  ここで述べられている「情報処理以上の何 か」というのは、論理的・合理的かつ意識的な 思考のことではないでしょう。  それは、既存の認識を超えた無意識的なもの であるはずです。ひらめきというのは、無意識 思考の結果、得られたインスピレーションでは ないでしょうか。  一円淵。では、ビルーゲイツやスティーブージョ ブズの証言をご紹介しました。  それらは、直観の重要性を説明するための事 例でしたが、彼らの証言にある「直観」という 言葉の裏に、無意識思考の存在があったかもし れないことは否定できません。  直観も無意識思考も、ひらめいた瞬間は同じ ような感覚になることがあります。  アイデアなどが突然浮かんだ場合、無意識思 考という存在を知らなければ、「直観」という 言葉に集約されると考えられるからです。  直観的に思い浮かんだアイデアは、実は無意 識的に思考し続けたことによって浮かんだアイ デアであったI。特に、常に情報を収集して いる経営者のような方の場合には、そういうこ とも十分ありうるでしよう。  日本人は論理・合理的思考に偏りがちである ことを前に述べました。  もちろん、それが悪いわけではありません。  しかし、日本人が苦手とする画期的なアイデ アを生むためには、無意識思考が欠かせません。  無意識思考を使いこなせるようになることで、 日常生活や仕事でよリパフォーマンスが発揮で きることは間違いないでしょう。 !鬪諭旨 大豆製品で脳の働きをスムーズにす る  人間の身体は、約60兆個の細胞でできていま す。  もちろん、脳も細胞で作られており、その1 つに「神経細胞(ニューロン)」があります。  神経細胞の数は、大脳と小脳を合わせて約1 千億個あるといわれています(諸説あります)。 そして、人間の細胞は、油の膜で包まれている のです。  神経細胞の中心には、細胞体があります。  細胞体からは、他の神経細胞から情報を受け 取るための樹状突起と、逆に情報を送るための 軸索が伸びています。  この軸索には、髄鞘(ミエリン鞘)という膜 が巻き付いているのですが、これの約7割から 8割が脂質でできているのです。  髄鞘は、電気を通しにくい膜であり、情報伝 達をスムーズに行うための重要な働きを担って います。  もし、脂質がきちんと摂れていなければ、髄 鞘の機能が鈍くなり、情報伝達が遅くなったり、 うまく伝達できなかったりしてしまうのです。  簡単にいうと頭の回転が悪くなります。  さらにこの髄鞘は、リン脂質という脂肪でで きています。リン脂質は加齢による記憶力の衰 えを防ぎ、アルツ(イマー病の発症を防ぐ効果 があるといわれています。  リン脂質そのものは、体内で生成できますが、 食事で補うことも可能です。リン脂質はさまざ まな食事に含まれていますが、特におすすめな のが卵と大豆です。  大豆は納豆、豆腐など、日本人にも馴染みが あり摂取しやすい食品ですが、注意も必要です。  一つは、安全性が保障されていない遺伝子組 み換えの食品を避けること、それから、できれ ば納豆などの発酵食品の形で摂取することです。  大豆に含まれるフィチン酸は、マグネシウム など生体にとって重要なミネラルの吸収を阻害 する作用があるといわれています。  しかし、発酵の過程でフィチン酸の影響をな くすことができるので、豆乳などではなく、発 酵食品を中心に摂取することが望ましいのです。  この”3つのポイント”を意識  すればいい  I−無意識思考のトリセツ  みなさんは、進路を決めるのにどれくらい時 間をかけましたか。  とある大学の先生が、学びたい学部や学科を 決めるのにどれくらい時間がかかったか、学生 たちに聞いてみました。その結果、数時間で決 めたという学生もいれば、1年以上かかったと いう学生もいましたが、多くは数か月を要した と答えたそうです。  専攻を決めるときは、たいてい2、3に候補 を絞ってから、どれにするか考えるのが一般的 でしょう。  その上で、たとえば「工学部だと就職には有 利かもしれないが、あまり興味がわかない」と か、「文系学部には興味があるが、就職に不利 だ」とか、立地や学費などの条件を踏まえて 「○大学か、△大学がいいのでは」などとあれ これ悩むはずです。  すぐには結論が出せず、とりあえずその問題 を一旦脇においておき、数日経過したある日、  「そうだ、やはり○○大学の経済学部にしよ う」  とひらめくI。これがまさに、無意識思考 を使ったいい例です。  問題を脇に置いている問、遊んでいる問、食 事している間に、私たちの無意識が考えてくれ ているわけです。  もちろん、私七生活や仕事で無意識思考を活 用しています。  研究者は実験の計画を立てたり、論文を書い たりすることが主な仕事です。  私の場合は、論文や実験計画の情報を一通り 頭の中に仕入れたら、ある程度気がのるまで 放っておきます。気がのる、やる気が出るとい うところを、無意識思考の答えが出た臨界点と して、私の中で位置づけているからです。その ような瞬間ほどアイデアや思いがけない着想が 浮かぶものです。  研究テーマに関する情報を仕入れたら、すぐ に研究に取りかかるのではなく、「飲みに行っ てしまう」という知り合いもいます。  彼は、そうするほうが良いアイデアが出せる ことを知っているから、意識して無意識思考を 活用しているわけです。  論文以外の文章を書く仕事のときもそうです。 読み物として読んでもらうための文章を書いた り、表現したりするのは難しいものです。言葉 の選び方や表現の仕方、そして読み手のことを 考えると、なかなか筆が進みません。  そんなときこそ、無意識思考の出番です。 ノーベル文学賞を受賞した文豪ヘミングウェイ は、思考を寝かせることの有用性について次の ように述べています。  「……また翌日書き始めるまで、書いているこ とについて考えないということを学びました。 そうすることで、私の潜在意識がそれについて               I 考えてくれているからです」 朷  彼は、クリエイティブな仕事をしている人が 共通して持っている認識として、この「思考を 寝かせること」を挙げています。  たとえば、友人と会話している間でさえ、そ れまで考えをめぐらせていたものが、鍋が煮詰 まるがごとく、ブツブツと音を立てながら無意 識が何らかの仕事をしてくれているというので す。  私もまさに本書を書いているとき、このアプ ローチを採用しました。執筆にとりかかってい るとき以外は極力、本書の内容について考えな いようにしていました。  すると、おもしろいように書くべきアイデア が湧いてきたのです!  旅行先を決めたり、飛行機のチケットを買っ たりするときも、無意識思考を使っています。  旅行に行こうと思い立っても、行きたい場所 がいくつもあって「どこに行くか」を決めるだ けで時間がかかることは珍しくありません。さ らには、いついくか、どの旅行会社のどのプラ ンで行くか、予算はいくらか……など検討材料 には事欠きません。  そういうときは、候補地を2、3に絞って、 それぞれの情報をざっと調べたら、あとは思考 を寝かせておきます。  飛行機のチケットを買うときもそうです。  地方都市間なら迷うことはないのですが、主 要都市間ですと、航空会社やルート、乗り換え のありなしなど選択肢はさまざまです。ホテル とのセットプランもありますから、料金との兼 ね合いを考えると結構面倒な選択になります。 そういうときも、ある程度候補を絞ったら、 放っておくのです。  放っておいて数時間後、もしくは数日後、ふ いに「これだ!」とピンときたものがベストな 選択であったりするものです。  私は無意識思考の存在を知ったときから、よ り一層好奇心を持って情報を集めることにして います。あとは、ほったらかしにしておけば、 無意識が勝手に情報処理をし、最高の答えやひ らめきを与えてくれることがわかっているから です。  そのひらめきの瞬間を逃さないために、メモ 帳は常に持ち歩いています。メモ機能を備えた アプリもスマートフォンにインストールして 使っています。  難題の解決法や、最高のアイデアが意識に 上ってくるのは、ほんの一瞬。それを忘れない ように手を尽くしているのです。  無意識思考とはどういったものか、どのよう な特徴を持っているのか。  ここまで読んでくださった読者のみなさんに は、かなりご理解いただけたのではないでしょ うか。  もっとも、無意識思考がどのようなものかわ かったところで、どうやって活用すればいいの か、その方法がわからなければ意味がない……。  そう思われる方もいるかもしれません。  そこで、ここからは、無意識思考を活用する ための具体的な方法論について、お伝えしてい こうと思います。  トリセツ@   「起動」させる時間が必要  無意識思考を使いこなすために、何か最も重 要なのか。  それは、無意識思考を「起動」させるための 時間を作ることです。  しかし、これが意外と難しいのです。  私たちは何かを決めたり、アイデアを生成し たりするときに、直観的に素早く考えたり、意 識的にじっくり考えたりすることに、慣れてし まっています。  先にも述べたように、国や文化によって推奨 される思考に違いがあります。欧米では、合理 的に素早く回答が得られ、結果が出れば良しと される傾向があるようです。  一方、日本では、結果はさることながら、そ の過程七重要視されます。じっくり考える合理 的な認知スタイルが好まれるのです。  成功者のライフヒストリーを語るにしても、 とにかく苦労して、がんばって、懸命に解決策 を考えて、その結果なんとか成功したという流 れがみな大好きです。  楽しみながらラクラク成功したというのでは、 誰も感動しませんし、どこか聞きたくないとい う雰囲気すらあるようです。  もちろん、私もがんばること、努力すること を否定するつもりは毛頭ありません。  しかし、無意識思考を使いこなすには、「が んばって考える」という行為そのものをしては いけないのです。「がんばって考える」ことは、 意識思考を使うということだからです。  そもそも、無意識思考は、  「課題以外の活動に従事しているときでさえ、 私たちは思考しているのではないか」  という仮説が出発点となっています。  たとえば、ニュートンが万有引力を発見した とき、アインシュタインが相対性理論を発見し たとき、彼らはその発見に数年、数十年の歳月 を必要としたでしょう。  しかし、その期間、彼らが昼夜問わず科学法 則のことだけを考え続けていたかというと、そ うではないはずです。  ただ、趣味を楽しんでいるとき、食事してい るとき、研究以外のことをしているとき、彼ら は無意識思考によって考え続けていたのではな いでしょうか。  注意を問題の対象からそらしていても、無意 識が思考し続けてくれている。  無意識思考は、そもそもの発想が、このよう な長期間にわたる思考が無意識に行われている のではないか、ということを起点にしています。  もちろん、これを科学的に検証、証明するの は非常に難しいことです。  なぜなら、数日、数か月間もの間、被験者の 思考をモニターすることは、実験上、不可能だ からです。そのため、無意識思考の実験では、 これまで紹介してきたように、数分間の妨害課 題をやってもらうことで、無意識思考のための 時間を作るという手法がよく用いられます。  ただ、気になるのは、無意識思考のための時 間をどれだけ確保すればいいのか、どのくらい の長さが最適であるのかでしよう。  無意識思考の研究がはしまった当初、無意識 思考は長ければ長いほど効果が出やすいと考え られていました。  しかし、話はそう単純ではないことが、最近 わかってきたのです。  ある実験で、無意識思考の時間を1分間、3 分間、5分間で設定し、どの時間が最も無意識                    − 思考の効果が出やすいかを検証しました疝。  その結果、無意識思考を3分間に設定したと き、最も良い選択をするという結果が出たので す。  1分間では短すぎた、というのはわかるとし て、なぜ5分間ではうまくいかなかったので しょうか。研究者たちは「考えすぎたのではな いか」と結論付けました。  じっくり考えるのが基本の意識思考であって も、考えすぎてかえって混乱を招いたり、わけ がわからなくなったりすることはあります。無 意識思考も同じで、課題や問題にあった、丁度 良い思考時間があると仮設を立てたわけです。  また、実験で使用される妨害課題は基本的に 退屈なものが多いため、長くなるほど被験者を イライラさせてしまい、それが無意識思考を阻 害するのではないか、という研究報告もありま す刹。  もっとも、実生活で無意識思考を活用するの であれば、無意識思考を行う時間についてはそ こまで気にする必要はないでしょう。  思考には。個人差”が存在します。  たとえば、ある意思決定をする際に、直観を 使う人もいれば、意識思考を使う人もいるよう に、人によってどちらを使うかはさまざまです。  思考法に個人差があることは、さまざまな研 究によって明らかになっています。  そして、無意識思考にも同じように個人差が あるのです。  そのため、一概に「無意識思考は○分間がベ スト」と決めつけるのはナンセンスです。数学 の問題を解くとき、人によってかける時間が違 うように、無意識思考にかける時間七人によっ てさまざまというわけです。  もちろん、課題によっても必要となる時間は 変わるでしょう。  世紀の大発見と、商品購入の意思決定とを比 べれば、同じ無意識思考を活用するとしても、 かかる時間は変わってくるはず。  前者は数年、あるいは数十年必要でしょうし、 後者は数時間、長くてもせいぜい数日あれば十 分です。  ただ、どちらにおいても変わらないのは、無 意識思考を使うための時間を、あえて準備する ということ。  無意識思考を活用したいのであれば、この点 は必ず心かけておかねばなりません。  トリセツA  他の何かに注意を向ける  無意識思考を起動させるためには、問題とは 関係のない対象に、注意を向ける必要がありま す。無意識思考の実験で行われる妨害課題が、 これに該当します。  無意識思考は、文字通り無意識に起こるもの。  しかし、意識的な注意などまったく不要とい うわけではありません。  無意識思考を行うためには、問題の対象とは 違う。何か”に、意識的に注意を向けなければ いけないのです。  その。何か”は何でも構わないのかといえば、 実はそうでもありません。  注意を何に向けるか、そして無意識思考で何 を行うかについては、あまり難しくないほうが よいのです。                    −  これを検証した実験を紹介しましよう抖。  被験者には、レンガの使い道について、通常 とは異なる使用方法を2分間でできるだけ挙げ るように求めるなど、創造性の程度を計測する 課題をやるようにお願いします。  さらに被験者は、課題が出された後、  @すぐに回答を始める  A休憩する(つまり、何もしない)  B別の簡単な課題に取り組んだあとに回答す   る  C別の難しい課題に取り組んだあとに回答す   る  という4つのグループに分けられました。  その結果、B簡単な課題に取り組んだあとに 回答したグループは、他の3つのグループより も、より無意識思考の効果が出ていることがわ かったのです。  この実験からわかるのは、第一に、休憩し、 何もしないでいると、無意識思考のスイッチは 入らないということ。「課題に取り組む」とい う行動がなければ、無意識思考はスタートしな いのです。  第二に、難しい課題よりも簡単な課題の方が、 より無意識思考の効果が大きくなることもわか りました。無意識思考をうまく活用したいなら、 その間、難しいことはやらないほうがよさそう です。                  −  似たような研究は他にもあります梢。  妨害課題として、類推課題などの難しい課題 ではなく、「好きな音楽を・IPOdで聴く」と いう課題で実験してみたところ、なんと被験者 は、好きな音楽を聴いたときのほうが、良い選 択をしていたのです。  つまり、無意識思考でいい結果を出したいの なら、自分にとって楽しいことや、気持ちのい いこと、ラクラクできることを行うほうがいい ようです。  そもそも、課題によっては無意識思考の期間 が数日、数週間、数年にだって及ぶことがある のは、音楽家や学者など先人たちの例でご紹介 したとおり。  長期間になれば、その問にどのような課題を やるか、などと考えてもあまり意味はありませ ん。  要するに、無意識思考を行っている期間に 「何をやるか」について、さほど神経質になる 必要はないのです。  ただ、時間をかけずに良い結果を導き出した いような場合には、あまり難しいことはやらず、 好きなこと、楽しいことをやったほうが得策、 ということは覚えておきましよう。   トリセツB   目的を明確にする  無意識思考は、文字通り無意識に行われるも のですが、そのためのトリガーとして意識的に 「目的意識」を持っておく必要があります。単 に情報をつめこみ、放っておけば、勝手に良い 選択、良い結果がひらめくというわけではあり ません。  実験においても、無意識思考をばしめる前に、  「○○の中から最も良い選択肢を選んでくださ い」  と、必ず目的を提示していました。  結局のところ自分は何を決めなければならな いのか、という点が明確になっていないまま、 無意識思考を行おうと別のことに従事する時間 を確保したところで、無意識思考ははじまりま せん。  良い結果は導き出せず、ただ時間を消耗する だけになってしまいます。  目的意識の重要性は、科学的にも明らかに        I なっています朷。  2章(一円詞。)にてご紹介した、4台の車の中 から最も良い車を選んでもらう実験を覚えてい るでしょうか。研究者たちは少しやり方を変え て、無意識思考に目的意識が必要かどうかを確 かめるために、次のような実験を行いました 割O  4台の車の情報が提示されるところまでは同 じですが、その後、3つのグループに分けられ た被験者は、それぞれ次のような指示を受けま した。 @意識思考条件  じっくり考えたあと、車について評価するよ うに求められた。 A無意識思考条件  「これからパズル課題に取り組んでいただきま すが、そのあとに車について評価してもらいま す」という指示が与えられた。 B単純妨害条件  「実験はこれで終了です。これからパズル課題 に取り組んでいただきます」という指示が与え られ、課題を終えたあと、車について評価する よう求められた。  つまり、Aのグループには、車について評価 するという目的を先に与え、逆にBのグループ には、事前に目的を与えないまま妨害課題のみ を解いてもらったのです。  その結果は、無意識思考を行ったAのグルー プが、@、Bのグループよりも良い選択ができ ました。  目的意識を持たないまま妨害課題を与えても、 単に問題から注意を逸らしただけということに なり、適切な選択はできないことがわかったの です。  もう1つ、目的意識に関して行われた興味深          − い実験があります朷。  まず被験者たちは、3台の車についての特徴 と、3人のルームメイトについての性格につい て、それぞれ10ずつの情報が提示されました。  3台の車のうち、1台は最も良い車(燃費が 良い、など)、1台は最も悪い車(燃費が悪い、 など)、残り1台はそのどちらでもない中間の 車でした。  ルームメイトについても同様、I人は最も良 い人物(きれい好き、など)、I人は最も悪い 人物(不潔である、など)、残りI人はそのど ちらでもない中間の魅力を持った人物でした。  そして、被験者を2つのグループに分け、1 つのグループには車について、もう1つのグ ループにはルームメイトについて、評価をする ように求めた上で、妨害課題を課したのです。  課題のあと、被験者たちは車とルームメイト の両方を評価しました。  その結果、それぞれ評価するように求められ た方のみを、きちんと評価することができたの です。  つまり、関係ない情報が与えられていたにも かかわらず、評価するように求められた方の情 報に絞って無意識思考が働き、きちんと評価で きたことになります。  このように、無意識思考を起動させるために は、「何について考えるか」という目的意識を、 自分自身が明確に持っておくことがとても重要 なのです。  無から有は生まれない  ここで1つ、みなさんが誤解しがちな点につ いて、ご説明しておこうと思います。  無意識思考について説明をするとき、よくい われるのが、  「無意識に思考しているというより、単に注意 をそらされて、新たな気持ちで選択に向き合う ことで、良い選択ができているだけなので は?」  という疑問です。  たとえば、新しい企画について考えてもアイ デアが湧かないようなとき、デスクを離れて、 コーヒーブレイクをはさみ、気分をI新して仕 事に戻ると、いいアイデアが次々と湧いてきた というような現象は、実際によくあることです。  これは心理学で「セットシフテイング(また はフレッシュルック)」と呼ばれます。  しかし、この現象と、無意識思考とは、明確 に異なるのです。  無意識思考では、「思考」が実際に起こって いるのは間違いありません。  前の項目で紹介した4台の車を評価する実験 で、Bの単純妨害条件グループに割り当てられ た被験者たちは、単にセットシフティングを起 こしているともいえます。  問題から注意をそらされただけだからです。  一方、Aの無意識思考条件のグループに割り 当てられた被験者たちは、良いパフォーマンス を発揮しました。  この2つの結果を照らし合わせれば、無意識 思考が単に気分転換することでフレッシュな視 点を取り戻せるといった話ではなく、きちんと 「思考」が行われているということがわかりま す。  もちろん、無意識思考を行うための情報は事 前に頭に入れておく必要があります。いくら無 意識思考を使ったところで、無から有は生まれ ません。  目的を明確にし、情報を十分に入れておけば、 あとは他のことをしているうちに、自ずと無意 識思考が最善の選択をしてくれるというわけな のです。   「直観」「熟考」「無意識」とい  う3つの武器  ここまで、無意識思考の重要性とその活用法 について、詳しく解説してきました。  読んでくださった読者のみなさんなら、これ からの実生活において、この無意識思考をきっ と有効に活用してくださるだろうと信じていま す。  ただ1つ、お伝えしておきたいことがありま す。  第三の思考である無意識思考はもちろんのこ と、第一の思考である直観(速い思考)、そし て第二の思考である意識思考(遅い思考)の2 つもまた、私たちにとっては無意識思考と同じ くらい必要で、あたりまえの思考だということ です。  問題解決、意思決定に対するアプローチは、 これら3つの思考を武器として、課題に合わせ て臨機応変に対応させながら、こなしていくこ とが重要です。  そこで、これら3つの思考について、ここで 今一度、簡単にまとめておきましよう。  直観(速い思考)は、意思決定の対象となる 課題が与えられたあと、時間をかけず即座に意 思決定をする方法です。  次に、意識思考(遅い思考)は、課題が与え られたあと、時間をかけてじっくり考える方法 のことです。  そして、無意識思考は、課題が与えられたあ と、その課題から一旦離れて、まったく関係の ない課題に従事してから、意思決定を行う方法 です。  無意識思考において注意しなければならない のは、課題から離れたあと、意識的に何かに従 事しなければならない、という点です。何かに 従事しておかないと、十中八九、課題について 意識的に考えてしまいますから、結果的に意識 思考になってしまいかねません。  もう1つの注意事項は「目標設定」です。  通常、意思決定では、何らかの課題があり、 それについて目標を設定します。  たとえば、「どの人物を採用するか」が課題 としてあるなら、その目標は「自社の組織に一 番フィットする人物を選択しよう」となるで しよう。そして、この目標設定なしには、無意 識思考は機能しません。  次ページに、これら3つのの思考法の使い方 をチャートにまとめました([図版16])。ぜひ 参考にしてください。  では、直観、意識思考、無意識思考という3 つの武器を、具体的にどのようにして使い分け ればいいのでしょうか。  基本的には、直観ベースで時間をかけずどん どん決定していきましょう。  時間は有限です。しかし人生には、無数の選 択の機会があります。そして、多くの選択は、 単純で些細なものばかりですから、時間をかけ ない方が得策なのです。  実際、私たちの生活が滞りなく、いつものよ うに、スムーズに進むのは、直観が「今日着る もの」「朝食べるもの」といった事柄に関して、 ズバズバと意思決定してくれているおかげです。  一方で、数値化可能なものや、定量的に扱う ことができるものは、合理的に論理的に考える ことが向いていますから、意識思考を使って考 えることで、良い選択をもたらすことができま す。  経理や財務の仕事は、意識思考の独擅場です。 他にも、旅行予算の概算を見積もったり、予算 内で購入できるものを見つけたりするといった ことにも、意識思考が効力を発揮します。  定量的な問題は、論理性、合理性を追求する 意識思考が最も得意とするところです。  そして、複雑な問題や難しい問題は、無意識 思考を活用するのがいいでしょう。  たとえば、2時間の会議で重要な問題を議論 し、意思決定を行わなければならないとしま しよう。  その場合、午前中に1時間、午後に1時間の 会議時間を確保した上で、間にランチタイムを 挟むのが、賢い時間の使い方といえます。  ランチという会議と無関係なことをする時間 を作ることで、無意識思考を使うことができる のです。  午前中の1時間は、意思決定の対象となって いる課題や情報の共有に時間を使い、クオリ ティの高い情報のインプットに充てます。  意思決定をするのは、午後の1時間の問。  こう決めることで、無意識思考に良い働きを してもらう条件が整うのです。  他にも、会議の前日に課題の情報共有を図っ ておく、というのも、無意識思考のためにはよ い時間の使い方です。  逆に、会議中に結論を急ぐあまり「がんばっ て考える」「じっくり考える」というやり方は、 意識思考にどっぷり漬かるやり方ですから、お すすめできません。  ちなみに、思考の3つの武器はミックスしな がら使えます。  ばしめは、意識思考を使って問題をじっくり 考える。  それでうまくいかなかったら、無意識思考を 使って、寝かせて考えてみるIという手順を とってもいいのです(【図版17】)。  むしろ、ミックスして使うことによって、よ !il 脳にも「運動」が必要だ  食と並んで、脳の健康を保つために重要なの は、運動をすることです。  もちろん、運動は体の健康にもうってっけで すが、それがなぜかは、科学など持ち出さなく ても感覚的におわかりのはず。  生物学的に、人間は植物ではなく動物です。 つまり、本質的に動く生き物だということです。 人類はそもそも数十万年もの間、狩りや狩猟で 食糧を確保していました。やがて、田畑を自ら 耕して作物を育てる生活へと変わったわけです が、要するに、生きるために常に動き回る日々 を送ってきたのです。  ところが、現代の私たちはどうでしょう。  車や電車が発達し、徒歩移動が劇的に減り、 快適なオフィスで仕事をするようになったのは、 人類の長い歴史の中では、ここ最近の話です。  現代人は、圧倒的に運動できない環境に身を 置かざるを得なくなっています。  運動が決定的に欠けてしまう生活が、私たち の体だけでなく、精神状態にも及ぼす悪影響は 計り知れないのではないか、と感じています。  運動が体、特に脳に良いことは、科学的にも 知られている事実です。  (Iバード大学の神経精神医学者ジョンーレ イティは著書の中で、  「運動は、身体的な面のみならず、精神的な面 にも重要な影響を及ぼす」          −  と述べています徇。  運動がストレスや不安、うつなどの精神面の 問題にも効果があり、さらに脳機能にも良い影 響を与えることは、さまざまな研究によって指 摘されています。  趣味でスポーツを続けているなら、それは とっても幸せなことです。  ジム通いもいいですが、抵抗があったり続か ないという人は、1日30分、ウォーキングをし てみるだけでも、体調や思考が変わってきます。  朝、今より30分早く起きて、通勤時に1駅分 多く歩いてみるだけで十分。  運動で頭をスッキリさせて、仕事に取り組め ば、これまでよりもっと捗るはずです。   ”結果”はもちろん”過程”も  大事  私たちは日々、何かを選択しています。つま り、意思決定を行っています。  その対象は大小さまざま、というのは何度も 繰り返してきたとおりです。  そこで考えたいのは、特に人生を左右するよ うな選択において、私たちは、  「あれはよかった」  「これはよくなかった」  という結果にばかり目が行きがちだという点 です。  しかし本当は、決定に至るまでのプロセス、 つまり思考法がカギを握っています。どのよう にして選んだのか、どのような思考の結果、そ の選択に至ったのか。  その点について考える人は、あまりいないよ うです。  たとえば、成功確率が60%の投資先Aと、成 功確率が40%の投資先Bがあるとします。あな たの手元には100万円があり、成功すれば10 倍、つまり1000万円になりますが、失敗す ればすべてを失ってしまいます。  検討したあなたは、投資先Aを選んで投資し ました。ところが失敗し、お金をすべて失って しまったI。  そこで考えてみてください。  あなたが投資先Aを選択したことは、間違い だったのでしょうか?あなたの選択は、100 点満点中、何点だったでしょう?  何も問題ありません。100点です。確率的 には正しい選択です。  しかし、失敗した自分に100点満点をつけ る人は少ないでしょう。「失敗した」という結 果に引っ張られて、正しい選択ですら、正しく 評価できなくなってしまいます。  仮に、あなたの友人が投資先Bに投資して成 功した、なんて話を聞こうものなら、選択は正 しかったにもかかわらず、あなたは点数をます ます下げてしまうのではないでしょうか。  同じような状況が実際のビジネスで起こって しまうと、事はもっと深刻なものになってしま うでしょう。  組織は、意思決定の結果のみを参考に、その 人やグループを評価するからです。結果を重視 するのは、ビジネスでは当然のことです。  ただ、結果が良ければ、その結果を導いた意 思決定のアプローチも、正しい方法でなされた に違いないと思いこんでしまうのは考えもので す。  問題に対するアプローチのプロセスをないが しろにしてしまうと、結果がすべてという思考 に陥ってしまいます。  これがよくないのは、失敗を恐れるあまり、 意思決定に対する恐怖心が芽生えてしまうこと です。さらに、意思決定に必要な質の高い情報 をきちんと集めることができたかどうかを、振 り返る機会を失ってしまいます。  アプローチは正しくても、結果が伴わないこ ともあります。  しかし、結果が悪ければ、アプローチすら失 敗であると勘違いしてしまうのです。  そうすると、結果が100%保証されない限 り、誰も意思決定などしたがらないでしょう。 失敗したい人などいないからです。  結果重視の環境で、失敗しないためにできる ことはただ1つ、何もしないことです。  何かを実行するとき、リスクが伴わないこと などないからです。  だから日本人は、何もしないためなら何でも するようになってしまいました。冗談のように 聞こえるかもしれませんが、私は的を射ている と思います。  がんばっても良くない結果に終わったときす べてを失うのであれば、何もしないほうがい い……。それはそれで1つの意思決定ではあり ますが、この風潮が続けば、新しいことに挑戦 する大はいなくなってしまうでしょう。  挑戦する人のいない組織は存続していけませ ん。  そうならないためにも、結果だけでなく、意 思決定の過程も同じように評価されるべきだと 思うのです。  そうはいっても、そうそう他人からの評価基 準が変わることはないものです。  ただ、自分で自分の評価基準を変えることは、 今すぐにでもできます。  意思決定の過程を評価するとは、決定に至る までに自分がどのようなアプローチをとってい たのかを顧みることです。  直観、意識思考、無意識思考のどの思考を 使ったのか。  意思決定に必要な情報を集めることができた のか。  サイコロを振るかのごとく、いい加減に決め なかっただろうか。  他人のいうことを鵜呑みにしなかっただろう か。  それらを振り返ることで、結果に対する自分 自身の解釈がずいぷんと異なってくることも多 いのではないでしょうか。  30年前に無意識思考の重要性を  伝えた名著  さて、ここまで無意識思考という概念につい て、その科学的根拠を説明してきたわけですが、 この思考そのものが、ここ数年までまったく認 識されていなかった、ということはないように 思います。  たとえば、30年以上のロングセラーとなって いる名著『思考の整理学』の中で、お茶の水女 子大学名誉教授の外山滋比古氏は、「意識思考」 「無意識思考」という言葉こそ使っていないも のの、概念的には同じ思考法について言及して いるのです。  外山氏は、おもしろい発想を生むために必要 なプロセスを、ビール製造になぞらえました。  そして、論文のおもしろいテーマなどアイデ アや創造性を生むためには、「醗酵」「寝かせ る」というプロセスが必要不可欠である、とし たのです。  ビールを作るには素材となる麦が必要ですが、 それだけでは足りません。醗酵素も必要です。 いわば、おもしろい発想を生むためのアイデア やヒントです。  しかし、醗酵素だけでも足りません。醗酵さ せるには「寝かせる」というプロセスが必要だ と外山氏は指摘しているのです。  「頭の中の醸造所で、時間をかける。あまり騒 ぎ立ててはいけない。しばらく忘れるのであ   I る」砌  「思考の整理法としては、寝させるほど大切な ことはない。思考を生み出すのに寝させるのが       I 必須である」匈  このプロセス、まさに無意識思考のことを いっています。  また、どれくらい寝かせれば醗酵するのかと いう点については、  「一律には行かないところが、ビール作りとは 違うところで、ビールは一定の時間寝かせてお けばいいが、頭のアルコール作りは、ひとに よって、また、同じ人間でも、場合によって醗                  − 酵までに要する時間が違っている」到  と指摘しています。  これもまた、無意識思考に個人差がある点と 同じです。  さらに、こんなことまでおっしやっています。  「よく、。朝から晩までずっと考え続けた”と いうようなことを言う人がある。いかにもよく 考えたようだが、その実は、すっきりした見方 ができなくなってしまっていることが多い。こ だわりができる。大局を見失って枝葉に走って                I 混乱することになりかねない」刈  要するに、意識思考の限界性について指摘さ れているのです。  そして、外山氏は最後にこう締めくくってい ます。  「努力をすれば、どんなことでも成就するよう に考えるのは思い上がりである。努力してもで きないことがある。それには、時間をかけるし か手がない。幸運は寝て待つのが賢明である。 ときとして、一夜漬けのようにさっとできあが ることもあれば、何十年という沈潜ののちに、 はじめて、形をととのえるということもある。 いずれにしても、こういう無意識の時間を使っ て、考えを生み出すということに、われわれは                 I もっと関心をいだくべきである」沛  この本が書かれた当時は、無意識的な思考の 可能性について議論されてはいたものの、その 科学的根拠にまでは踏み込めていなかったで しょう。  そのような時代背景のなかで、無意識思考の 重要性を、ここまで具体的かつ簡潔に説明され る外山氏は、やはり一流の研究者であろうと私 は思います。  そして、外山氏ご本人こそ、無意識思考の達 人であっただろうとも推察されるのです。  論理的、理性的な思考は”すで  に限界”をむかえている  現代は「VUCA」(フーガ)の時代といわ れます。  「VUCA」とは、「Volatility =不安定」、 己ncertainty =不確実」、「Complexity =複雑」、 「Ambiguity =曖昧」の4つの単語の頭文字を とったもの。日本を含めた世界情勢を、端的に 表現した言葉とされています。  昨今、政治、企業経営が、非常に複雑で不安 定な環境におかれているのはご存じのとおりで す。個人の生活も同様で、いわゆる斷捨離ブー ムや、それに関連してシンプルライフ、モノを 極力持だないミニマリストという人たちが増え ているそうです。  裏を返せば、私たちの生活が複雑になってい るということでしょう。  ビジネスパーソンの研修や教育システムにも、 大きな変化が訪れています。  一昔前までは、大手企業の幹部候補者を中心 に、海外の著名大学でMBA(経営学修士)を 取得するのが流行っていましたが、最近では、 MFA(芸術学修士)に変わってきています。  経営コンサルタント・独立研究者の山口周氏 は、著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を 鍛えるのか?経営における「アート」と「サイ エンス」』の中で、グローバル企業は今、幹部 職員のトレーニングを行うために、従来のビジ ネススクールではなく、アートスクールや美術 系大学院に送り込んでいる、と書いています。  このトレントは、すでに10年前から続いてい るそうですが、単に芸術の教養を身につけさせ るためではない、というのです。  それには、複雑なビジネス環境が起因してい るといいます。  山口氏は、ビジネスパーソンに美意識を鍛え させる背景として、次のような要因を挙げてい ます。  「これまでのような『分析』『論理』『理性』に 軸足をおいた経営、いわば『サイエンス重視の 意思決定』では、今日のように複雑で不安定な 世界においてビジネスの舵取りをすることはで      I きない」汕  つまり、昨今においては、論理的、理性的な 情報処理スキルの限界が露呈しているというわ けです。  これまでは、分析的で論理的な情報処理スキ ルというのは、ビジネスパーソンにとって必須 のものとされてきました。  しかし、考えてみれば、論理的に情報処理す るということは、他人と同じ答えを導くことを 意味するわけなので、必然的に「差別化の消 失」をまねきます。  さらに、同氏は、分析的・論理的な情報処理 スキルの、方法論としての限界も指摘していま す。  VUCAに象徴される複雑な環境においては、  「これまで有効とされてきた論理思考のスキル は、問題の発生とその要因を単純化された静的 な因果関係のモデルとして抽象化し、その解決 方法を考えるというアプローチをとります。し かし、問題を構成する因子が増加し、かつその 関係が動的に複雑に変化するようになると、こ                     I の問題解決アプローチは機能しません」洵  そこで、山口氏は、経営における意思決定を 「論理」と「直感」、「理性」と「感性」という 対立軸で整理しました。  そして、多くの日本人は、ビジネスの意思決 定では論理的で理性的であることを、直感的や 感性的であることよりも高く評価する傾向があ る、と主張したのです。  さらに、経営の意思決定においては、論理も 直感も高い次元で活用すべきモードであり、両 者のうち一方が、片方に対して劣っているとい う考えは危険だという認識の上で、現在の企業 運営は、その軸足が「論理」に偏りすぎている と問題提起しています(本書では直観と表記し てきましたが、原著を尊重し直感と表記してい ます)。  つまり、これだけ複雑な環境では、論理や理 性では割り切れないのです。  私の研究データが示す通り、日本人のビジネ スパーソンはどちらかというと論理的・合理的 な思考スタイルを持っています。  そのため、論理に偏りすぎているのは、デー タからも明らかです。  感性を養うために芸術を学ぶことは良いこと でありますし、社会の変化に適応するためにこ のようなトレントが続くのは望ましいことで しょう。同時に、問違いなく必要なのは思考法 について学ぶことです。  これまで見てきたように、複雑な条件下での 意思決定そして創造的発想は、無意識思考が最 も得意とするところです。直観も無意識思考も、 ひらめきという点では似ているものですが、本 来はまったく異なります。  いずれにしても、昨今のような複雑な社会で の意思決定においては、無意識思考が大変効力 を発揮するものであることは、覚えておきたい ものです。   これからの時代を存分に楽しむ   ために必要な「Th・−rdth   ・−nk・−n9」  冒頭から繰り返してきたとおり、これからの 社会では、創造性が発揮できない人は淘汰され ていく可能性が高いでしょう。  人工知能(AI)の急速な発展により、単純 作業はコンピューターやロボットにとってかわ られようとしています。この自動化の風潮は世 界規模で展開されています。  イギリスのオックスフォード大学で人工知能 の研究を行うマイケルーオズボーン准教授は、 人工知能の高度化に伴って、今後10年から20年 で、今ある仕事の約半分はなくなってしまうと         I 予測しています叫。  たとえば、タクシー運転手は、自動運転の車 が実用化されれば、仕事がなくなるでしょう。 レストランの案内やホテルの受付も、タブレッ トで代替されてしまう可能性があります。大半 の事務職も、人工知能に仕事を奪われてしまう といわれています。  また、すでに海外では「無人コンビニ」なる ものが、試験的に始まっているようです。将来 的には、店の人員も大幅に減少するかもしれま せん。  つまり、身の回りにある、ありとあらゆる仕 事が、縮小される、あるいはなくなってしまう かもしれないのです。  あらゆるものが自動化、効率化していくこと で、社会システムがより円滑化するという一面 は確かにあります。  日常的に電子マネーをお使いの人は多いで しょう。買い物するとき、電車やバスに乗ると き、タッチするだけで決済できてしまうのは非 常に便利です。  しかし、電子マネーが登場する以前は、もち ろん人の手でその媒介を行っていたわけです。 お会計では店員さんとのお金のやり取りが必須 でした。電子システムの登場により、社会的効 率性は大幅にアップしたのです。  コンピューターが得意としているのは、単純 作業の自動化です。  それはつまり、人間が単純作業から解放され ることを意味しています。その分、人間は時間 と労力を使って、よリクリエイティブな仕事に 従事することができるのです。  先はどのオズボーン准教授は、絶対に消えな い仕事として真っ先に、「クリエイティブな仕 事」を挙げています。  また、カウンセラーやセラピストなど、人と 対面で接し、導いたり癒やしたりする仕事も、 人にしかできません。発明・発見を仕事とする 研究者や、芸術を生み出すアーティストも、代 替は難しいでしょう。  人や組織をリードするマネジャーのような仕 事も、なくならないかもしれません。  単純作業はコンピューターが、クリエイティ ブな仕事は人間が行うI。そういう時代が、 まもなく到来します。  それは、人間の創造性によって経済、時代を 切り開いていく、「クリエイティブーエコノ ミー」と呼ばれる時代です。  今後、クリエイティブーエコノミーの社会で 生き残っていく際に問題なのは、高齢になって からの仕事や雇用でしょう。  もちろん、若い現役世代であれ、クリエイ テイビテイを発揮しなければ今後、生き残って いくのは非常に大変な時代になります。  そして、高齢者はもっと大変です。  現在、日本の平均寿命は男性81歳、女性87歳。 医療や社会制度の発展により、近い将来卯歳ま で伸びるといわれています。  平均寿命が伸びるのと相まって引き上げられ るのが、定年です。  国民年金が導入された当時、多くの企業は55 歳定年制でした。  それが、いつの間にか60歳に引き上げられ、 2012年には65歳まで継続雇用することが義 務化されたのです。このまま寿命が延び続けれ ば、おそらく定年70歳、いや75歳となる囗がく るでしょう。  まさに人生を終えるその瞬間まで働く、「生 涯現役」が現実のものとなりつつあります。と いうより、多くの世帯では、働き続けなければ まともに生計を立てることも難しいようです。  体力はもちろんのこと、記憶力など認知機能                − は、年とともに衰えていきます汕。  アンチエイジングなどで若さをキープするこ とが流行っていますが、それにも限度があるで しょう。  加齢と衰えは、人間に生まれたからには避け られない宿命です。  現状でも、70代の人材を雇用できる企業は限 られているといいます。  では、果たして、80歳の人材を雇用できる企 業は、どれだけあるだろうか。  現在の現役世代が考え、準備しなければなら ないのは、この点です。  かつては、上司の指示に従い、決まりきった ルーティンーワークをこなせば、定年まで安泰 でした。それが崩壊しつつあるのは、誰にいわ れるまでもなくみなさんが実感していることで しょう。  その上さらに、AIによる自動化の波が押し 寄せてきています。私たちは、抜本的に働き方、 考え方を変えるときにきているのでしょう。  これからの時代、創造性の発揮なくして生き 残るのは至難の業です。  もっとも、創造性を発揮できるなら「卯歳ま で現役」も夢ではありません。  誰もやっていないこと。  誰も思いつかないようなこと。  まだ誰も気づいていないこと。  まだ誰も手を付けていないこと。  それを見つけ、ものにして、世に知らしめる 創造性を発揮できるかどうか。  それが、成功できるかどうかのカギになりま す。  創造性は、人間が持つ最高の知性です。  それを思う存分発揮するために、今必要なこ とは、創造性を発揮するためのヒントを与えて くれる「無意識思考」を、自ら駆使する方法を 知ることです。  発明発見の基礎となるのは、斬新なアイデア や発想です。  より専門的にいうと、それは「発散的思考」 なのです。  アイデアや発想は、どこかに落ちているわけ ではなく、ましてや他人が教えてくれるもので はありません。自分の頭で考えるしかないので す。  逆説的に聞こえるかもしれませんが、アイデ アがはしければ、机の上で考えている時間など もったいない。  アイデアに必要な情報を得たら、さっさと遊 びにでもいって、好きなことをすべきでしょう。  そのうち、あなたの脳は無意識的に思考し、 処理して、突然あなたに、斬新なアイデアとい うギフトをプレゼントしてくれるはずです。 エピローグ 無意識思考は誰にも与えられた、 より人生を豊かにするぶ取強の思 考法”だ!・ 「複雑な問題に対して、最高の意思決定を行 「創造的な思考を身に付ける」  この2つは、現代社会で必要不可欠です。そ して無意識思考は、この2つを可能としてくれ ます。  今後の社会において、無意識思考を使えるか 否かで、その人の人生が大きくかわってくるの ではないでしょうか。  無意識思考は、誰にでもできます。特別な装 置など何もいりません。  意識思考とは違い、一生懸命にがんばらなく てもできます。むしろ、「がんばって考える」 という努力の否定ですらあります。  これまでは、複雑で難しい選択や、斬新なア イデアをひねり出そうと肩肘張って考えていた 人も、これからは気楽に、楽しみながら、無意 識思考で取り組めばいいのです。  まさに「果報は寝て待て」です。  無意識思考は、決して新しい思考法ではあり ません。  人類史に残る偉人たちも、無意識思考を使っ て発明、発見をしていたことは、数々の証言か ら読み取ることができました。  もっとも、当時は現在のように科学技術が発 展していませんでしたから、その実態を計測す ることはできませんでした。本書でご紹介した 心理学研究、そしてfMRIを用いたリアルタ イムの脳活動の計測といった技術が出現したの は、ここ最近の話です。  無意識は、紙の質問紙では計測できません。 科学がようやく無意識というブラックボックス に光を当てられるようになった、ともいえます。  私は、無意識思考と併せて、才能や天才性な どを研究してきました。  その過程で、目に見えない存在について考え させられることが多かったのも事実です。  魂の存在、神、そして霊感の存在……。  偉人の中には、その創造性を、自身の魂や霊 感によるものと証言する人も少なくありません。 これは明らかに、無意識や潜在意識とは違うも のです。  確かに、あまりにも突出している稀有な芸術 性や作品数、類まれなる能力を目にすると、目 に見えない。何か”があってもおかしくないよ うにも思えてきます。  私は霊感などない普通の人間です。霊的現象 は目に見えない世界であり、現代の科学では解 明できません。そのため、科学研究者の多くが、 霊的現象に否定的な見方をするのもやむを得な いことだと思います。  しかし、計測できないからといって全否定す るのも、また科学的ではないと感じています。  最新の量子論によると、私たちはどうやら見 たとおりの世界を生きているわけではないとい います。目に見える世界ですら、科学的に解明 できることはほんのわずかでしかありません。 スピリチュアルの科学研究などを読み解くに、 そのような霊的世界があってもおかしくないと 個人的には考えています。  実のところ、無意識や潜在意識は、スピリ チュアルや超常現象の枠組みで語られることが 多いのです。だからといって、それらを「霊 感」という匸言に集約し、その有無が類まれな る才能に影響すると考えるのは、早計ではない でしょうか。  これでは、霊感がない人たちは一様に才能に 恵まれていないことになってしまいます。霊感 のように感じていたインスピレーションは、実 は、無意識思考によって導かれていたものだっ た。その可能性は大いにあるのです。  現実に、科学的に検証することによって、無 意識は私たちに実に多くのことをもたらしてく れていることは、すでに明らかにできたと思い ます。  無意識思考の存在、そして、その効果の偉大 さは、研究してきた私か一番確信しているもの です。無意識思考こそ、最強の思考法です。  そして私は、この無意識思考が、もしくはシ ステム3、第三の思考という言葉が、あたりま えのようにビジネスや教育の現場で用いられる ようになることを、夢見ています。  最後に、本書を出版するきっかけを作ってく ださった東京医科歯科大学の歯科医で品龍寺住 職の半田威徳さん、また執筆にあたっては、あ さ出版の皆様ならびに玉置見帆さんに大変お世 話になりました。  あらためて、感謝申し上げたく思います。  そして、いつも支えてくれている家族にも感 謝を。  最後に、読者のみなさんが、無意識思考に よってより良い選択と、より素晴らしい創造性 を手にできることを心から願っています。                  影山徹哉